Vol.25 2月17日号 週刊あんばい一本勝負 No.22


事務所は新宿歌舞伎町

 先週から3連休もなしのぶっ続け全員出舎、アルバイトもフル動員で夜遅くまで仕事が続いています。1階が若い女性陣を中心にしたノンスモーキング派で、2階はおじさん中心のヘビースモーカ派にくっきり分かれ、連日10人を越す人たちが狭い事務所内をぶつかりあいながら(まるで新宿歌舞伎町を歩いているようなものです)黙々と仕事をしています。ウチはどんなときでも徹夜だけはしない伝統を持っている会社なのですが、この時期、実はお役所関係の「事業報告書」を短期間で仕上げてしまう仕事を引き受け、それがここ3年連続で続いているのです。報告書は3部ほどつくればいいのですが、そこまでいくのが大変で、B5版200ページほどの本を10日間で作っていると思っていただけばいいと思います。もう後2,3日で光が見えてくる予定で、そうなるとハデにどこかで宴会を開くのを楽しみにしているのですが、これが終わるとぐったりとつかれてしまいます。とにかくデザイナーもオペレーターも近所のおばさんも昔の社員も近県のライターたちも行きつけの「和食みなみ」の人たちも(夜食をつくってもらう)総動員ですから、舎内は毎日がお祭りのようなにぎわいですが、お祭りと違うのは誰も顔が笑っていないことです。もう後少しで終わりです。最後の力を振り絞ってラストスパートです。
(あ)

事務所1F

事務所2F

「神保町・書肆アクセス半畳日記」が復活します

 月刊舎内報「んだんだ劇場」に長く連載がつづいていた黒沢説子さんの「日本で一番小さいユニークな本屋さん日記」は、彼女が結婚、出産という予想もしなかった出来事のため、連載を中止せざるを得なくなりました。しかし、来週からその連載をアクセスの畠中店長が引き続き書いてくださることになりました。同じタイトルで、同じ空間のことを、前任者の後を受けて書くというのはしんどい力仕事ですが、こちらの再三にわたる懇願を聞き入れていただき続投してもらうことができました。黒沢さんの場合は、若くて怖いもの知らず、何でも見てやろう的な好奇心に連載のおもしろさを託したのですが、畠中さんは一転、ご主人も神保町の有名古書店で働いている、いわば生粋の活字人間夫婦で、「本」を中心に据えた、落ち着きのある辛みのきいた連載が期待できそうです。こうご期待。
 とにかく、ここに来て「んだんだ劇場」は突然活気がでてきました。水面下では仙台のある博物館の名物学芸員の連載も交渉中です。HPが面白くなるかどうかは、作っている側がどれだけ面白い連載をストックできるかにかかっています。意外なテーマで、意外な人物がこれからも登場します。
(あ)

弓立社の宮下さん

 あるパーティの帰りに弓立社の宮下さんに誘われてご一緒した。弓立社は女子高生の制服図鑑や吉本隆明さんの本で有名な神保町の出版社で、社長の宮下さんはもともとは徳間書店の編集者だった方である。宮下さんは今、「吉本隆明全講演CD集」150タイトル(!)を刊行するための準備を進めている。そのうちあわせの席で吉本さんと「せいぜい最後は5セットぐらい売れれば、それもしょうがないかも」と2人で笑いながら話し合ってきたばかりだという。しかし、遠大で誰もまねのできないこの企画を経済的にも成功させたい思いも強かったようで、小生のようなものに相談を持ちかけてきたのである。本屋さんが敬遠するような高価格でスパンの長い全集ものは、逆に図書館専門の販売会社や外売り専門の特化した書店にとって願ってもない商品である。宮下さんは書店以外で本を売ることなど、これまで考えたこともなかったようで、「それは売れます。BK1の安藤君を中心にTRC(図書館流通センター)と丸善や紀伊国屋の外商部を組み合わせて販売を任せれば、宮下さんの考えている5倍は売れるはずです」と力説する私を、狐につままれたようにポカンとみていた。後日、私の言うとおり安藤君らに会い、この企画は絶対に行けますという彼らプロフェッショナルたちの確約をもらったようで、宮下さんからは丁寧な礼状をいただいた。私たち地方出版社はほとんど書店の力に依存できないハンディのある場所で本を出してきた。今回はたまたまそんな「貧困な体験」が逆に少しは人様の役に立ったというわけである。ハンディキャップにもこんな使い道がある。
(あ)

No.22

歌田明弘(中公新書)
本の未来はどうなるか

 著者は「ユリイカ」や「現代思想」の編集長だった人である。全体が七章構成になっていて最初の三章までが本というメディアの歴史的、哲学的考察にさかれ、ここは小生には目から鱗が落ちるような記述にあふれ興味深く面白かった。中盤から後半はテーマは本と言うよりも、現代社会が未来に向けて「記憶装置」をどのように発展、進化させていくのか、という現代サイエンスの最前線の解説になっていき、興味のないむきにはいささか退屈になる。しかし本のタイトルの脇にあるサブタイトルには「新しい記憶技術の時代へ」とあるから、本への言及が少ないのを羊頭狗肉と責めるのも筋違いである。
 著者がもっとも関心があるのは、第二次世界大戦から戦後にかけてアメリカ大統領科学顧問として現代アメリカの科学技術大国の組織的基盤を作ったヴァニーヴァー・ブッシュという人物である。この人物の生涯を克明に追うなかから、彼が生涯追求をやめなかった「記憶の道筋」という概念に興味惹かれ、人類の記憶装置としての「本」の過去と未来を検証していく、というのが本書の成り立ちである。一読の価値あり。

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