Vol.251 05年6月25日 週刊あんばい一本勝負 No.247


沖縄は雨だった

 那覇にあるボーダーインクという出版社の創業15周年記念のシンポジュームに出席するため、沖縄に行ってきました。あいにく雨続きで3日間一度も晴れ間は拝めなかったのですが、同行した地方小のK氏と四六時中顔つき合わせながら、書店めぐりや、沖縄料理を楽しんできました。それにしても那覇の書店で郷土史コーナーが占有する面積の広さというのはどこも尋常ではなく、沖縄では郷土本が観光の文化セクションとして「なくてはならない存在」になっているのに改めて驚きました。日本全国から「地方出版」というジャンルが消えても(これは可能性大)、沖縄だけは「郷土本」というジャンルが残り続けるのでは、と二人で確信したほどです。小生はどこへ出かけてもお土産は買わないのですが、今回は牧志の市場で「鰹節」を見つけたので1本買ってきました。小さいころ、朝よく鰹節を削らされたのを思い出しました。削り器は2年ほど前に買ってあるので、これでうまい味噌汁が飲める! ってけっきょくは自分の食欲のための土産でした。雪国生まれのクセに、私は泡盛も沖縄料理も何の抵抗もないばかりか「最も好きな料理と酒」の一つです。秋田の空で、今日もいただいた極上の「豆腐よう」をなめなめ泡盛の水割りを飲んでる私です。
(あ)

この壁面全部が沖縄本

市場にあった鰹節

街道が楽しい

 福島県北部にある桑折で奥州街道と分かれ、宮城、山形、秋田、青森と北上した羽州街道。江戸時代から明治にかけて東北の2大街道のひとつとして利用され、現在の国道7号、13号はこの街道を基にして整備されました。羽州街道沿いには街道の道筋復元や探訪会、旧宿場を活用した地域おこしなどを目的に活動している個人やグループがたくさんあります。今年になってそれらの人々が交流する場をつくろうという話しになり、「羽州街道交流会」を設立しました。主な目的は情報交換や各種の共同事業、交流会を行うなどととしています。その具体的な話会いを行うため、宮城県七ヶ宿町に各県の代表などが集まり第1回の懇談会を催しました。会場は当主が19代目という安藤家のお屋敷。代々、検断(大庄屋)をつとめた家で、秋田の殿様・佐竹侯が参勤交代の際、本陣変わりにして宿泊していた家です。普段は非公開としているため、今回は中を見学する絶好の機会でもありました。
 当日は各県から30数人が七ヶ宿の公民館に集まり、会の規約確認やこれから行う事業計画などを話し合い、安藤家に席を移して交流会を行いました。山形県高畠町二井宿から応援に駆けつけた会員たちが、そば粉100%の手打ち蕎麦、みそ焼きたんぽ、山菜汁と山菜の漬物などを振る舞い、地元で取れた岩魚の塩焼き、各地から持ち寄った羽州街道に関わる日本酒などがテーブル一杯に並べられました。そんな東北の旨いものに、はるばる福岡や静岡からお祝いに駆けつけてくれた「全国街道交流会議」のメンバーも大喜び。その場で羽州街道の起点の町となる福島県桑折の人たちが、7月に終点の町青森市油川を訪ねる話しが決まりました。今まで地域という点で活動していた人たちが、街道という線でつながり、新しい交流が始まるのが楽しみでしょうがありません。
(鐙)

表門を5年ぶりに開けたという安藤家

座敷には街道好きが集まり大賑わい

No.247

黄落(新潮文庫)
佐江衆一

 「介護」という言葉が身近なリアリティをもって日々心に侵食してくる。そんな年になってしまった。現実的にも環境(?)は充分に整っていて義母は認知症すれすれで近々同居予定だし、実母も一人暮らし、弟夫婦と同居する日も遠くはない。それでも親の近くに暮らしているだけまし、と都会に離れて暮らす同級生たちからはうらやましがられる身分だ。彼らは「親は他人(施設)に面倒を見てもらう」という選択しかもはや残されていないのだという。しかし、親と同居する生活を描いた本書の内容は介護や親といった存在が、そんな生易しい世界ではないことを抉り出している。壮絶で凄まじい戦いなのである。目を背けたくなるようなシーンを、しかしながら丁寧に言葉を選んで書きとめているので不快感はなく、逆に静謐感が文章全体に漂っていて、もっと読みたいという気にさせる。これが文学の力というものだろう。ノンフィクションだったらこの手の内容は放り出してしまうだろう。還暦まじかの夫婦が92歳の父と87歳の母を介護する日々を描いた作品だが、父と母の造型が類型的でなく、そこがこの本をダイナミックで静謐、沈鬱なのだがどことなくユーモラスに見せている要因なのかもしれない。

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