Vol.26 2月24日号 週刊あんばい一本勝負 No.23


「秋田のことば」ついに増刷!

 初版の5千部をようやく売り切って3千部の増刷が今週できあがってきました。「すごい売れ行きだ」という人もいるでしょうが、舎内的には「思ったより伸びが悪い」というのが正直な感想です。県と大学と民間の出版社がタグマッチを組んだ出版として全国的にも注目を浴びたこの辞書は、A5版1000ページで2800円という破格の安さなのですが、これも1万5千部近くは売れるのではないかという皮算用によるものです。30年近い経験から県内書籍事情を鑑みて、この線は固いと思っていたのですが「考えてたより書店の足腰が弱くなっている」というのが実感でした。ま、それでもこの本の売れない時代に1万部近い本が出たのですから快挙には違いありません。少し時間はかかるかもしれませんが最終的には1万3千ぐらいには持っていきたいものだと思っています。年内にもう1回増刷ができると心から「成功」といえるのですが……。
(あ)

高齢者たちの自分史ホームページ

 ある健康器具メーカーが主催する「私が生きてきた20世紀」ホームページコンテストの審査員なるものを引き受けた。年齢50歳以上のエントリーで写真や短歌、自分史、小説とジャンルを問わない応募コンテストで、高齢者たちの多彩な「スキル」に舌を巻いてしまいました。たとえば自分史というのがこの手の定番なのだが、パソコンで作る自分史は紙のそれと違い、ジャンル分けや図版類の制作の自由さがあるため、とにかく盛り沢山で構成もしっかりしているのが特徴である。デジタルの自由さでいかようにも変更、更新が可能なためだろう。いろんな方たちの主に自分史を見ながら「これで本という形で自分史をだそうとする人は死滅するな」と落ち込んでしまった。デジタルの欠点は、とにかくいくらでも書くことができるので文章が冗漫になってしまうことなのだが、これも慣れてくるにしたがって、あるいは素人編集者みたいな人が出現してインタラクティブに洗練されていくのではないだろうか。審査をしながら「紙の出版の危機」をこの日ぐらい強く感じたことはなかった。
(あ)

神楽坂がお気に入り

 最近、東京に行くとほとんど神楽坂で飲んでいる。近くに出版クラブや地方小・出版流通センターがあるということもあるのだが、やはりあの一帯には歴史の厚みのある居酒屋が多いし、大人が安心して飲める落ち着きがあるのがいい。昔からここにある「モー吉」には年に2,3度は行く機会があって、気になる街ではあったのだが、先頃センターの連中においしい焼鳥屋やバーを紹介され、またいろんな方から「あそこはいい店がある」と教えられ、ぼつぼつとそれらを探検しはじめているところである。運がよいことに毘沙門天の真ん前に友人の矢部君がやっている「書籍情報社」と彼のお兄さんが大阪でやっている創元社の東京支社の入っているビルがある。そこへいく用事を作れば毎日神楽坂で飲めるのである。つい先日、神楽坂の坂を上りきったあたりでばったり知り合いの若い女性に出会った。彼女はもう17年間も神楽坂の写真を撮り続けて、神楽坂好きがこうじてこの街に住み込んでしまったという山本陽子さんというカメラマンで、写真がようやく一段落したので、今は90歳を越えたこの近辺の芸者さんの聞き書きをはじめようと思っている、とのことだった。彼女自身、お風呂帰りのすっぴんで、それがまた色っぽく、そんな若い女性と神楽坂の道路の真ん中で立ち話というのも、なんか乙なもんですね。いやぁ神楽坂にどんどん友達が増えていくというのは気分がいい。
(あ)

山本陽子さんの写真

ライターズ・ネットワークのこと

 今年もまたライターズネットワークの大賞授賞式に行って来た。特別賞にわれらが地方小の川上賢一が選ばれたこともあるが、小生としてはこの会の金丸弘美さんの「持続の努力」に敬意を表してのことである。今年も200人近い人たちが出版クラブに詰めかけて、毎年毎年、会の規模が大きくなると言うのも珍しいし、それが会の代表である金丸さんと裏方を引き受けている福岡の田島安江さんの尽力によるものなのである。田島さんは小生と同い年、その昔葦書房にもいたことのある女性だが今は「システムクリエイト」という企画製作会社の社長である。とにかくこの2人のコンビがこの会をここまで大きく有名にしてきた。たいしたものである。会員には若いフリーランスの女性たちも多く、毎年彼女たちからの名刺責めにあう。今年も50枚近い名刺をいただいたが、皮肉を言わせてもらえば、明らかに名刺を配るためにだけ来ているような人もかなりいて、小生は同じ人から何枚も名刺をもらって閉口した。名刺じゃなくて、なにを売り込みたいのか、その中身を期待しているのだが、そこまで踏み込んで話す時間がないのが残念である。知り合ってしまえば後はメールで企画を売り込んでもいいわけだから、そのぐらいアグレッシブな女性が少ない気がするのが残念である。
(あ)

No.23

高平哲郎(晶文社)
あなたの想い出

 美空ひばりや中上健次、林家三平といった故人になった有名人二十三人と著者との関わりを一人一編ずつ綴ったエッセイである。個人的に高平さんは知り合いなのだが、私は書かれている芸能人にほとんど興味がない。だから、いつもなら手にとることはないのだが、「この本はちょっと違うのでは」という根拠のないひらめきがあって買ってみた。それが図星だった。たとえば松田優作の章で、著者は無名時代からの知り合いと言うこともあり、彼が有名な俳優になってからも変わらぬつき合いをしているつもりなのにある日突然、優作から激した電話があり絶交宣言をされてしまう。その後直ぐに優作は死んでしまうのだが、この話は交友録というよりも喧嘩話で、その話がストレートに語られいながら見事な追悼文になっている。弁解も一知半解も批判も韜晦もない。レベルの高い短編小説を読んでいるような深い読後感があるのである。景山民夫しかり、日野元彦もいい。勝新太郎も三木のり平も、芸能ジャーナリズムの反対側にいるアーティストたちの姿を高平さんの視線と編集芸で見せてくれる。この本の最高のスターは著者本人なのだ。自らの少年時代や若い頃の失敗話が有名人のエピソードの陰にさりげなく挿入され、味わいのある掌編に華を添えている。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.22 1月27日号  ●vol.23 2月3日号  ●vol.24 2月10日号  ●vol.25 2月17日号 

Topへ