Vol.260 05年9月2日 週刊あんばい一本勝負 No.256


北前船のメッカ北陸

 久しぶりに北陸に行って来ました。「全国北前船研究会」から「北前船に関する話を少ししてもらえませんか」と依頼されたためです。この会は北前船研究の第一人者Mさんが会長を務めるもので、今回で19回目の開催とのこと。途中、寄りたいところがたくさんあったので車で行くことにし、仙台、福島、新潟、富山と立ち寄り、仕事の打ち合わせや撮影をしたり、ヒッチハイクが趣味という静岡の小学校の先生Oさんを乗せたりしながら、2日かけて金沢まで行きました。金沢では北前船と食文化をテーマにした資料館づくりの構想を持ち、生まれ故郷の金沢市大野という北前船と関わり深い町で、地域づくりを始めたT君という若者と一献やりながら夢を聞かせてもらいました。

橋立の町並みは近々、国の「重要伝統的建造物群保存地区」に指定される予定
 フォーラムの会場は北前船の豪商をたくさん輩出した石川県加賀市橋立。2日間で基調講演を含め6人の人が北前船に関する研究発表やお話しをし、夜は私の好きな「立山」などの酒を飲みながら盛んに交流をしました。北前船が好きでたまらない、という人ばかりが日本各地から集っていて、参加者には結構知っている顔も多く、『北前船』の取材時にお世話になった人や、その後知り合った人など20人近くいました。持って行った本もほぼ完売するというおまけまで付き、北陸まで来た甲斐がありました。
(鐙)

足を延ばして大阪まで

 せっかく北陸まで行ったので、ちょっと足を延ばして大阪にも行ってきました。『北前船』の取材時はオープン直後で、ごたごたしていたため訪問しなかった「なにわの海の時空館」を訪ねるためです。ここには大阪と江戸を結んだ菱垣回船(ひがきかいせん)の実物大千石船「浪華丸」があります。これがどうしても見たくて見たくて足を運びました。船はさすがに大きなもので4階の高さがあるフロアから見ても帆はまだずっと上まであり、上から船を見下ろすと乗っている人が小さく見えるほど。館内には大阪港をさまざま角度から紹介するコーナーや、和船の歴史と菱垣回船など多くの展示物があり、さらに企画展「船が運んだ出会いもん 〜昆布と鰹節〜」をやっているは、「浪華丸」の設計監修者の神戸商船大学名誉教授・松木哲さんの講演まで聞けるはで、そのタイミングの良さに大喜び。この博物館だけで半日もいてしまいました。 夜はかねてからやりたかった大阪の酒場めぐりです。案内してくれるのは、一年前に大阪の下町酒場の本を出したIさん。これ以上のガイド役はそうそういないでしょう。観光客がまず来ない、渋い店を連れ回してくれました。まずは阿部野筋にあるM、昭和13年開店という素晴らしい雰囲気の店。次は旧遊郭(実際は現在も)の飛田を通り抜け、難波のYという、あて(酒のつまみ)が抜群にうまい店へ。その後ちょっと日本酒が続いたというので、通天閣の下まで戻ってバーBへ。ここも開店50年になる店。階段の裏板に東郷青児が書いた絵が残っていました。仕上げはショットバーのZ。ここだけが新しい店でした。これでも今回は私が初めてだということで、ちょっと抑えたそうですが、次の機会があれば大阪の中心部から外れたすごい店をいろいろ教えるとのこと。江戸の文化や下町の雰囲気漂う東京の居酒屋とはまた違う、ディープな大阪の居酒屋。なかなかのものでした。
(鐙)

「なにわの海の時空館」。まるで大阪湾に浮んでいるよう

浪華丸は船の全長30メートル、帆の高さが27,5メートルもあります

「みどりのゆび」

 「みどりのゆび」というフランスの児童書があります。触れたものに花を咲かせる「みどりのおやゆび」を持つ少年チトが、刑務所や病院などにさまざまな花を咲かせて人々を喜ばせ、さらに、戦場の兵器にも花を咲かせて戦争を中止させる、というお話です。
 最近、岩波少年文庫になったこの本を発見したので、懐かしくて読み返してみました。最初に読んだのは子どもの頃で、その時はまったく面白いと思いませんでしたが、今はチトの「緑の親指」がとてもうらやましい。どこにどんな花を咲かせるのが効果的なのか、ちゃんと分かっているところがチトのスゴイところです。特に、兵器を役立たずにするために使った植物を見ると「なるほど」と感心します。
(富)

No.256

神楽坂ホン書き旅館(NHK出版)
黒川鐘信

 2年半前、神楽坂に事務所をかまえたとき、あまり興味はなかったものの地域的なつながりで本書を買った。買ったのはいいが、いざ神楽坂の住民になると近所の飲み屋にもまったくといっていいほど行かないし(住む前はあこがれていたくせに)、ご当地本にもさっぱり興味が失せた。こんなものなのかもしれない。最近、事務所が中野に移ったとたん神楽坂の本を読みたい気になったのだから現金な話だ。住んでいるころはあまりに身近で、場所への感情移入が激しく、そのぶん物語を楽しめないのでは、という危惧があったためかもしれない。ともかく本書の主人公である旅館「和可菜」は、わが事務所から1分とはなれていない場所にあった。もちろん遠めに眺めるだけで入ったことも泊まったこともないのだけれど、これだけ赤裸々に内部の事情や歴史を知ってしまうと、ますます泊まるのは遠慮したくなる。経営者の姉は女優の木暮美千代で、もともと彼女が買ったものを妹に与えた宿である。その姉の女優のことを手放しで賛美していない、というか逆に突き放した書き方をしているのが、なかなか興味深い。著者はこの宿の経営者の親戚にあたり、映画への熱い思いもあり、それがこの本にある種の深みを加味している。

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