Vol.268 05年10月29日 週刊あんばい一本勝負 No.264


山形・信州・神保町の旅

 何年ぶりになるだろう、山形市の駅裏はすっかり変わっていた。いわゆる再開発というのやつで、突然駅横に30階建ての高層ビルが建っていたのには驚いた。その24階にホテルのフロントがあって、市内を眺望できるようになっているらしいのだが、あまり高くて(建物が)泊まる気にならない。山形のF印刷所と仕事をして30年になる。毎月のように山形市に通っていた時代もあったがデジタル化の影響だろうか(いや秋田市にF印刷の事務所ができたのが大きいかな)ほとんど行く必要がなくなって、もう5年以上になる。せっかく来たのだからと上山の「葉山館」という温泉旅館に印刷所のMさんと宿泊。Mさんなじみの女将もまじえて夜の宴会は楽しかった。翌日は東京事務所でいったん荷を下ろし、すぐに地方小K氏と山口の古書店Mさんの3人で長野へ。友人の出版社主Tさんをお見舞いするためだ。松本の病院に入院中のTさんのところに行く前、長野の出版社の人たちを表敬訪問。いつものようにR書房の人たちのお世話になって翌朝は車で松本へ。予想に反して大手術を乗り越えたばかりのTさんは意気軒昂、逆にこちらがはっぱをかけられてしまった。いやぁ元気でひと安心。その日のうちに東京に帰り、次の日は神保町ブックフェアへ。といってもこちらは本を出品しただけなので、ブラブラその雰囲気を楽しむ気楽な身分。フェアーのプロデューサー役の信山社Sさんや元晶文社Sさんとも久しぶりにバッタリ。やっぱりお祭りっていいもんですね。毎日バタバタといろんなところを移動してけっこう疲れたが、それとは逆に身体に精気がみなぎっていくエネルギーもいろんな方からいただいた5日間だった。
(あ)
上山温泉で買った「ごぼうせんべい」とブックフェア

No.264

お江戸風流さんぽ道(小学館文庫)
杉浦日向子

 著者が亡くなってから、なぜか彼女の本に目が行くようになった。生前も何冊か著作を買ってはいたのだが、正直なところ最後まで読みとおしたものは少ない。暇なときにパラパラとページをめくる程度なのだ。本書は「江戸学入門」の基本テキストというか初歩的教科書。浮世絵や古地図を参照にしながら4回にわたって行われた講義録をもとに本に編んだものらしい。江戸のファッションや長屋暮らし、四季の行事に娯楽や色恋まで、庶民の息づかいを伝える良質のエッセイ・ガイドブックになっている。個人的に秋田の食べ物の話を調べているのだが、江戸期の食文化は避けて通れない。その必要から、そこを入り口に江戸時代の人々の暮らしぶりを調べるうちに、どんどんこの太平のちょんまげ時代に興味がわいてきた。しかし、なかなかうまい入門テキストというのにあたらない。歴史の世界は「うるさがた」の多いところで、ヘンなことを活字にしてしまうと一生浮かびあがれない厳しい学問世界でもある。そのため論文はともかく、読者を楽しませるための歴史雑学ネタは書きたがらない専門家が多いのである。そのてん本書はりっぱにその陥穽をおぎなって、入門テキストの役目を果たしている。発行の奥付を見ると今年の7月1日。亡くなる直前に刊行されたものなので、著者の死には何も触れられていない。

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