Vol.269 05年11月5日 | ![]() |
街道のお祭 | |
前回、かつて宿場だった福島県の町で、町中心部や街道に賑わいを取り戻すための取り組みを調査しているという話を書きましたが、その町とは桑折(こおり)という所です。福島県の北の端にあり、昔の奥州街道が町の中心部を通っていて、さらにそこから羽州街道が分岐していた町です。参勤交代で奥州街道を江戸に向かう5大名と、羽州街道を通る13大名がここ桑折で一緒になるため(同時にではありませんが)、大いににぎわった宿場でした。しかし、昨今の日本中にあるほとんどの町と同じで、不景気と人口減少、商店街の郊外集中などにより、町中心部はさびれてしまうばかり。そこで桑折町では国土交通省が実施している「オープンカフェ社会実験」というシステムに取り組んでみたのです。これはどうすれば町に賑わいを取り戻せるのかという社会問題を改善する、ヒントを導き出すための実験で、日本各地で行われています。無明舎出版ではその調査と報告書づくりを依頼されたため、1ヶ月間、毎土、日曜日に桑折に通うことになったのです。 桑折ではその「オープンカフェ」を「街道茶屋」という名称に替え、日替わりでスケジュールを組み、街道コンサートや大道芸、街道フォーラム、江戸時代の旅人を装った仮装行列などさまざまなイベントを行っています。先週は「ふくしま県街道交流会」という街道仲間が、小名浜漁港からサンマを運んできて炭火で焼き、おにぎりや味噌汁と組み合わせて販売しました。取れ立てのサンマはぴかぴか光っていて新鮮そのもの。サンマを焼く煙とおいしそうな匂いに引き寄せられ、用意した300匹のサンマはあっという間に完売しました。 (鐙) | |
サンマを焼いた煙は奥州街道を漂った | 旅人の仮装行列。楽しそうに町民たちが参加していた |
絶品「たえちゃん漬け」が食べたくて | |
山形、長野、東京の出張から帰ったばかりなのに今度は横手、鹿角1泊2日の強行スケジュール。横手は「発酵厨房 蔵ら」というレストランの取材。駅前のホテルに泊まったのだが、きれいなホテルにもかかわらず宿泊費は4千円。インターネットで予約したのだが県内のホテルに泊まるのは珍しいので、この安さには驚いた。翌日は鹿角市で開催されている種苗交換会をちらりと見てから、小坂町の「桃豚」の養豚場を取材。今話題の豊下社長にインタビュー。「桃豚」はおいしさだけでなく従業員の年棒制や近代的な雇用形態、ISO取得や完全無薬システムなど、今もっとも日本の畜産業界で注目を集め売上を急上昇させている会社。農協職員を辞め、わずか数年で日本の畜産界に大きな影響力をもつようになった豊下さんは人間的にもなかなか魅力的な人物であった。 しかし近くなったとはいえ鹿角は遠い。横手を9時に出て鹿角を回り、秋田市の事務所に帰ってきたのは夜の8時。一日中車に乗っていた感じだ。それでもあまり疲れを感じなかったのは、横手で、Sさん特製の「たえちゃん漬け」をいただいたうれしさから。この漬け物は輪切りにしたダイコンを干し湯で戻し、ニンジンとしょうがの細切りを巻き込こみ、甘いタレに漬け込んだ「干しダイコンのしょうゆ巻」。 | |
友人の奥さんで、学校給食栄養士であるSさんのオリジナル漬け物である。こんなにおいしい漬け物を食べたのは久しくなかったほどの逸品で、去年Sさんからいただいたときは本当に驚いた。今回の横手行きの真の目的はSさんから「たえちゃん漬け」をいただくこと。ちなみに「たえちゃん」というのはSさんの名前。商品化すれば話題になること必定なのだが、本人は「退職してからゆっくり考える」とのこと。これで酒を飲んだら、もうやめられない。これは無明舎で商品化したいほどだ。 (あ)
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これが噂の「たえちゃん漬け」 |
郷土料理に舌鼓 | |
翌日曜日には山形県の庄内地方にある朝日村に行ってきました。本作りのため思い出せないほどの回数この村に通ったため格別な愛着がある村ですが、10月1日で合併して鶴岡市に変わってしまいました。かつてこの地域を六十里越という街道が通っていて、出羽三山の参拝道として大変な通行客が行き来していました。山形ではこの街道や山寺、慈恩寺、出羽三山という宗教山域を世界遺産にしようという動きが起きていて、その一環で六十里越街道を今後どのようにすればいいのか、というフォーラムに参加要請があったためです。宿舎である湯殿山の山中にあるホテルに投宿してみるとあたりはもう真っ暗。着くと同時に酒宴が始まりましたが、そのテーブルに並べられた料理を見て胸が高鳴りました。この地域の郷土料理がずらりと並んでいます。メモを見ながらその料理を並べてみますと、湯揚げ大根、笹小屋の凍み豆腐と棒ダラの煮付け、キノコ料理は4種類でキクラゲのみそ和え、アカモダシのずんだ和え、モダシと菊の醤油煮、ブナカノカの煮付け、アケビの油炒め、イワナの南蛮漬けと刺身、沼エビの踊り食い、ぶどっぱ餅、漬物としてぶんどこ漬け、山菜のどうぐり漬け、そして仕上げはクマ鍋でした。名前だけ見てもよく分からない料理が多いと思いますが、全て地元の食材で作った昔からの料理です。 聞くとこれらの郷土料理は普段のメニューではなく、今回だけの特別料理とのこと。旅館ではこの様な料理を出したいのだが、準備と調理に大変な手間がかかるため実施できないでいるそうです。しかし昔からの出羽三山参拝客だけでなく、最近は湯殿山や月山登山、六十里越街道を歩く客なども多くなり、郷土料理を求められるケースも増えていると聞きました。その土地の料理を食べるのは旅の醍醐味なので、是非実現して欲しいものです。定着すればその料理を食べるだけでもお客さんが来るようになるでしょう。ちなみに、翌日の「六十里越街道フォーラム」は密度の濃い内容で、行った甲斐がありました。 (鐙)
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中央がキノコ料理、左奥がイワナの南蛮漬け、左が湯揚げ大根、下がぶんどこ漬けと山菜のどうぐり漬け | 街道フォーラムは朝日村の旧田麦俣分校の講堂で開催された |
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