Vol.270 05年11月12日 週刊あんばい一本勝負 No.265


金子さんおめでとうございます

 秋田市在住の洋画家・金子義償さんが秋田市文化章を受賞、そのお祝いの会に参加してきました。金子さんとはもう20年以上のお付き合いで、耳の不自由な金子さんが設立したろうあ者だけで構成した、人形劇団の中国公演の手伝いを頼まれたのが始まりでした。ほぼ等身大の人形を黒子が操り、人形に手話をさせるという画期的なステージで、当時大きな話題になったものです。出し物は「白蛇伝」。秋田公演終了後、中国の西安とシルクロードの中継都市であった、甘粛省の蘭州市で公演をしようという計画でしたが、舞台監督や照明、大道具などの人間が手不足で、我々、舞台に慣れた者が同行することになったのでした。正確には覚えていませんが、20日間近く中国を旅行しながら公演したように記憶しています。当時の中国はまだほとんどの地域を外国人旅行者に解放しておらず、北京や上海などの大都市以外で外国人を見るのは稀、という時代でした。公演そのものは大成功でしたし、私は毎晩のようにこっそりホテルを抜け出し、市内に飲みに行ったり、市場で麺料理や果物を味わったりした楽しい思い出が鮮明に残っています。
 今回の金子さんの授賞式には一緒に行った役者やスタッフも駆けつけ、久しぶりの再会を楽しんできましたが、何といっても一番嬉しそうだったのは金子さんご夫妻です。揃って金子さんのもとにお祝いに行くと、我々を大きな手で抱きしめ、大変な喜びよう。その瞬間、中国公演での楽しかったこと、大変だったこと、さまざまなことを思い出し、ちょっぴり目頭が熱くなってしまいました。
(鐙)

家族揃ってステージでの挨拶。当時まだ高校生と小学生だった2人の娘さんも一緒の中国公演でした

変わった風景と初めて食べた給食

 少し古い話で恐縮ですが、先月の市町村選挙の際の横手市の市会議員選挙の選挙ポスター掲示板です。お隣の全国的話題になった大仙市の掲示板も同じころ目撃して、その候補者の多さに(掲示板の大きさ)驚いたのですが、人っ子一人歩いていない農道沿いにこんな掲示板があると、この町の人口より多いのでは、と真剣に心配になってきます。しかし圧巻ですね、この賑わい。
 もうひとつの写真も私的にはかなり珍しいもの。朝日新聞県版に連載中の『食文化あきた考』の取材で訪れたO中学の給食です。メーンは『ビタパンです』といわれたけど、ビタパンという食べ物はおろか言葉すら聞いたことがない。どこか中近東のほうの国で食べるパンのようで、丸いパンの真ん中に具を入れてハンバーグのように食べるのだそうだ。具は横のサラダや薄い鶏肉風のハンバーグで、食べるとなかなかうまい。実は小生、学校にまだ給食がなかった弁当世代である。給食には、異常なほどの期待と憧れがある。その期待を裏切らないおいしさだった。最近では〈マツタケ給食〉や〈バイキング給食〉といったものまであるそうだ。いやはや、貴重な体験をさせてもらいました。
(あ)

ビタパンって知ってる?

この風景。

No.266

あのころの未来―星新一の預言(新潮文庫)
最相葉月

 この著者の「絶対音感」という本にはビックリした。最終章のインタビューで五島みどりが、目隠し状態で五人の国籍の違う音楽家にモーツアルトを弾いてもらい、その弾き手の国籍を音だけで言い当てることができる、という件だ。著者は人と科学の関係を問い続けているノンフィクションライターで、世の中には存在しないといわれる青いバラの軌跡を追った『青いバラ』も読みたかったのだが、いかんせんこちらの文系ボンクラ頭ではちょいと歯が立たない硬派な記述が多く、手を出せなかった。理系に強く、美人で、文章もシャープ、乱作しないし、大げさな記述やこけおどしがないない。その作家が考え付いたテーマが、あのSF作家星新一の作品から、いまを預言していそうな作品を拾い出し、今の時点で論評(エッセイ)する、というコンセプトの本書である。ネット社会やクローン技術、臓器移植に生殖医療、さまざまなテクノロシーが星のショートショートですでに描き出されていることに驚くが、こうしたテーマを執筆企画として思いつく著者の「ひらめき」もすばらしい。巻末には星の未亡人との対談も付記されていて、まことに読み応えのある1冊である。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.266 10月15日号  ●vol.267 10月22日号  ●vol.268 10月29日号  ●vol.269 11月5日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ