Vol.272 05年11月26日 週刊あんばい一本勝負 No.268


連日の雨続きで、くさっています

 日中は比較的晴れているのに、夜になると雨で、雷が一晩中なり続けたりのすごい1週間でした。夜に散歩するのが日課なのですが、その時間、その場所で晴れていても山側まで歩いていると必ずといっていいほど雨なのです。どうも雨雲と晴れ間の分水嶺コースを歩いているようです。散歩しないと身体がムズムズして、その後の読書やビデオ鑑賞にイマイチ集中できません。そこで仕事が一段落つく午後3時の晴れ間に事務所を飛び出して、駅前まで歩いて帰ってくる〈散歩〉コースを開拓しました。ちょうどこの時間帯は集中力が切れて眠くなりソファでグッタリしていることが多いので、時間の有効利用にはぴったりです。駅前には巨大な〈アルヴェ〉という、よくわからないアミューズメントビルのようなものがあるのですが、水野某とかいう映画評論家に騙されたとかでシネマコンプレックスが撤退、建設1年目にして廃墟も噂される秋田市で今もっともナウい「プレースポット」です。とてつもないお金をかけて(税金も)建てられたのに、もう〈廃墟〉の腐臭が漂いはじめている建物というのは重要文化財並みですから観光名所になる可能性もあります。ここのフロアーで一休みしていると人間のおろかさをしみじみ反省したくなります。この日はフロアーで東北農政局が「米粉パン」の試食会を開いていたので、職員に白神こうぼパンとの違いなど、専門的なインタビューをして帰ってきました。米を食べてもらうための試食会を開いていながら職員の方々は、あまり米やパンの知識をお持ちでないことにも驚きました。なんともけっこうなご身分です。アルヴェで気分をリフレッシュ、事務所に帰ってくると歩数計はぴったし1万歩になっています。
(あ)

これがアルヴェです

米粉パンはモチモチしておいしい

辛味大根

 秋田県北部は辛味大根のメッカです。丸いのから長いの、濃い紫色をしたものから、白いのとさまざまです。大根とカブは地域によって数多くの種類があり、同じ地区でも土が違うと別種になる、といわれるほど変化に富んでいます。どういうわけか県北地方には辛い大根やカブが多くあります。有名なのが鹿角市松館で作られる「しぼり大根」ですが、その辛さは強烈で、日本一辛い大根ともいわれているようです(私の経験では福島県柳津町の野生種「アザキ大根」がもっと辛い)。しかし、この種をほかの地域に持ち出して栽培しても辛くなくなったりします。確かにそんなに辛くない「しぼり大根」を秋田県中央部のスーパーで買ったことがあります。土があわないためでしょうね。  昔から県北各地で作られている辛味大根ですが、以前は簡単には手に入りませんでした。わずかの量しかつくらないため、自家用やおすそ分け用だったようです。それがここ数年事情が変わってきました。国道沿いに道の駅が出来、市町村ごとに大型の野菜直売所が作られるようになったためです。おかげで今まで外に持ち出されることがなかった“オラエ”(我が家)の野菜や漬物、加工品、料理に陽が当たるようになりました。むしろ今ではこちらが直売所の主役のような大きな存在になっています。辛味大根が並ぶのは11月の中ごろから。数日前、能代市に行ってきたついでに能代、八竜の直売所をのぞいてきました。まだ出揃ってはいませんでしたが、それでも5種類確保。12月になるとさらに種類も増えますし、峰浜・八森や大館方面に足を伸ばすともっともっと種類は豊富になります。私は辛味大根の絞り汁を蕎麦つゆに入れるのが一番好きですが、きざんで醤油をかけたり、大根おろしにしたり、絞り汁をハタハタのしょっつる鍋に入れたり、ホーレンソーのおひたしにかけてもいけます。葉もの野菜と違って簡単に悪くなら ないので、冬の間、私の晩酌の肴に変化をつけてくれることでしょう。
(鐙)
今回ゲットした大根。5種類あわせて380円でした直売所の前にはたくあん漬け用の大根が積まれていました。干した大根が20本で800円くらいと格安です

雪の津軽・南部路

 土曜日から日曜日にかけて青森に行ってきましたが、なんと青森市周辺は積雪があり、東北自動車道には除雪車まで出動していました。青森市の知り合いの話しだと、11月に雪が降るのは普通だが、積もるまで降るのは珍しいとのこと。昨年は大雪でしたので、今年もそうなのか、とちょっと心配していました。さて今回の青森行きは一年ぶりに南部の上北地方です。上北地方とは小川原湖の東西から下北半島の中央部まで。十和田市や七戸町、野辺地町、六ヶ所村などがある辺りです。まずは七戸町で奥州街道の探訪会に参加して取材。そこでKさんという老人に会いましたが、何とKさんは「坪の碑」の発見に立ち会った人でした。「坪の碑」とは中世から伝わる伝説で、「日本中央」と掘られた石碑にまつわるものです。古来よりこのあたりにあるはずとされていて、何百年もの捜索騒ぎを伴っていました。それが昭和24年に“発見”されるわけですが、真贋論争をも巻き起こしたいわくつきの石です。当時小学生だったKさんは、弁当持ちとして発見者のおじいさんに付き添っていたそうです。まさか関係者がまだ生きていて、それも会って話を聞けるとは思ってもいませんでしたので、大いに驚きました。街道散策の後は上北で発掘を行っているTさんの案内で、東北町歴史民俗資料館と収蔵庫で埋没林見学。4年前、下北縦貫道の工事現場から出た30万年前のヒバ、スギですが、信じられないことに今でも普通の木のような状態でした。夜はTさんの弟さんが経営する居酒屋で南部の料理で一献。ここは昔からの馬産地なので、馬の刺身や馬鍋、またニシンの醤油漬けを初めとした郷土料理が並びます。お酒も結構いただいて宿の温泉旅館に帰ってバタンキューでした。
 翌朝は朝食をとってすぐ出発。Tさんも同乗して陸奥湾沿いで写真撮影です。去年から行っている菅江真澄のプロジェクトを、青森まで延ばすための準備でしたが、雪のため思うとおりに行きません。そのため早々に切り上げ、青森市に入って街道仲間と来年の活動の打ち合わせをしました。昼からは弘前市に移動して、私の北前船の先生である県立郷土館学芸員のKさんの講演を聴いて勉強です。終って帰ろうと思ったら、NHKのSさんに誘われ岩木町にある「鳴海要記念陶房館」で陶器見学。最後に弘前中三デパートの地下に行って、津軽の納豆、漬物、豆腐、昆布の佃煮など粗食食材の買出しをして、ようやく秋田への帰路につきました。二日間の強行スケジュールでしたが、なかなか実のある津軽、南部の旅でした。
(鐙)

東北自動車道の浪岡・五所川原IC付近。タイヤ交換していて良かった

居酒屋でいただいた馬鍋。すっきりした味の鍋でした

No.268

焼身(集英社)
宮内勝典

 この著者の本もよく読むほうだ。昨年亡くなった山尾三省さんと個人的にお付き合いがあったので、山尾さんとつながるこの人の著作も読むようになったのだと思うが、ニカラグアかどこかの独立戦争にゲリラとして従軍したルポを読んだときは、こんなことができる日本人がいることに心底驚いた。本書のあらすじをかいつまんで言えば9.11のニューヨークのテロが契機になり、そこから数十年前のベトナムで焼身自殺をした僧を思い起こす。その僧にたまらなく会いたくなり、奥さんを伴ってベトナムやカンボジアを旅する物語である。映画で言えば「ロード・ムービー」というもので、僧を訪ねる目的よりもそのプロセスで起きる出来事や人物描写、自分の過去の風景への里帰りが興味を引く。ともすればベトナムで焼身自殺をした高僧のことよりも、世界を放浪した著者の回想や奥さんとの出会いなどのほうに関心が向いている自分に気がついて、頁をくくりなおしたりする。そういった意味でもロード・ムービーと似た所があって一気に最後まで読み進むことができる。読後、これは小説なのだろうか、それとも質の高い新しい形の紀行文なのではないのか、といった考えに囚われそうになるが、まあ、面白ければどっちでもいい。とにかく抜群にスリリングでミステリアス、そのくせノンフィクションの臨場感が満ちている不思議な本だ。

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