Vol.274 05年12月10日 週刊あんばい一本勝負 No.270


南部の穀物を堪能

 盛岡、一戸、二戸と岩手県の南部地方に行ってきました。今度新たに「NPO奥州街道会議」(仮称)をつくる準備会議のためです。福島、宮城、岩手、青森と奥州街道沿いの県だけでなく、福岡、静岡などから20数人が集りました。いい機会なので奥州街道の史跡を見学することにし、旧街道を国の史跡指定を目標に整備を始めた一戸町教育委員会の方から案内していただきました。用意されていたマイクロバスに乗り移動を始めましたが、前日からの雪でどこも真っ白。この季節では当たり前のことなので、気持ちを切り替え、真っ青な青空と雪景色を楽しんできました。途中、我々が乗っているマイクロバスが対向車を避けて路肩に脱輪し、除雪車に引き上げてもらうというアクシデントがありましたが、かえっていい思い出です。
 昼食は二戸駅前にある雑穀茶屋「つぶっこまんま」で。Aさんを中心に10人の女性が交代で働いている店です。「雑穀」という言い方は、そのあたりにある野草を一まとめにして「雑草」と呼ぶのと同じであまり好きではありませんが、あわ、ひえ、もちきび、アマランサスなどさまざまな穀物を指します。昔は米作に適さない土地で作られる穀物で、米のかわりに食べる主食だったため、まずい食べ物というイメージが付きまとっていました。しかし、最近では穀物に対する関心が高まり、その料理法がさまざまな雑誌で紹介され、おいしさや栄養の高さが見直されています。岩手県はその勢いを見逃さず「雑穀王国 岩手」として売り出し中で、それなりの成果を挙げているようです。なかでも二戸周辺は栽培が盛んで、その穀物をフルに活用した「つぶっこまんま」はいつ行ってもおいしい穀物料理が食べられる店として人気です。我々を待っていたのは雑穀飯(白米プラスひえ、あわ、いなきび)、ひえのフライとむかごに似たほど芋(アピオス)、ウコンを練りこんだはるさめ、ひっつみ(小麦の練ったものとニンジン、ゴボウ、鶏肉)、炒りおから、漬物(赤カブ、甘酢漬けダイコン)の定食でした。独特のやさしい味わいの料理が並び、食べながら気持ちが穏やかになって行くような感じがしたのは、私だけではないと思います。
(鐙)

右手前から時計回りに、ひえフライとほど芋・ウコン入りのはるさめ、雑穀飯、炒りおから、漬物、ひっつみ

食後、「南部美人」という日本酒をつくっている酒蔵も見学

盛岡で開いた「奥州街道会議」の話し合い

新しい散歩道を開拓

 自慢ではないが東京都内はほとんど電車を使わず歩いていける。神保町を中心に、そこから半径5キロ圏内は何度も歩いているので、風景が頭に刻み込まれている。ところが地元秋田市になると、からきし方向音痴になる。散歩は夜がほとんどで、それも極力人と会わない田んぼや山際を歩く。だからたまに街に出ると道に迷う。秋田市に住んで35年以上になるのに、町名はほとんど知らないし、FM秋田とか秋田朝日放送といった放送局がどこにあるのかわからない、りっぱな公共の施設の名前も知らない。車が苦手、人と会うのはもっぱら自分の事務所という、わがまま男なので、その結果がこうだ。これではいけない、と思ったわけではないが、連日の雨続きで(それも夜になると降り出す)身体がなまり始めたので、やむなく午後3時ころの仕事がひと段落つく時間帯に街の中心部を歩くことにした。いくつかのコースを試してみて、もっとも人と会わず、ボーっとしながらでも事故にあわない「旭川上流」コースが気に入った。旭川は市内を貫通して流れているのだが、秋田北高校あたりから工業高校を経て、天徳寺に向かう道路と交差する道路をこえたあたりまで行き帰ってくるコースだ。旭川が思ったよりもきれい(清流)で、いろんな種類のカモが種類別に縄張りを作ってかたまっていて、まるで〈カモの川〉のような、のどかな雰囲気を漂わせている。土手沿いには定番の犬散歩人と会わないのもいい。ここは穴場だなあ。もっともっと市内を歩いて、小さなとっておきの散歩道を見つけたい。
(あ)

これがそのコース

とにかく鴨天国

またまた弘前へ

 11月に青森の上北、青森、弘前に行ってきた話を書きましたが、先週の日曜日に再度弘前を訪ねて来ました。今度は北前船の勉強会で、講師は青森県立郷土館のKさんです。Kさんは木造船の研究を専門にやっていて、特に漁船と北前船に造詣が深い方です。私が北前船の本を作るとき、取材の前後にいろいろとレクチャーをしていただいたもので、秋田大学のW教授とともに私にとっての北前船の先生です。今回のテーマは「祭と日本海海運・文化を運ぶ北前船」で、京都の祇園祭が北前船の影響で日本海を北上し、各地に広がったことの検証と、新たな祭の広がりとして「ねぶたと日本海海運」の考察でした。この勉強会は7月に始まり、毎月開催していたので今回で6回目でしたが、私の都合が合わず参加できたのは3回だけ。弘前のNHK文化センターから依頼され、私が企画を手伝った会でしたので、何とかもっと通いたかったのですが残念です。しかしほかの参加者は熱心で、私を除いた皆さんは皆勤賞だったようです。講義は1月から3月までもう3回ありますので、1回でも多く顔を出そうと思っています。ちなみに残りのテーマは「西回り航路と東回り航路」「日本海を北上した幻の漁船『川崎船』」「青函連絡船の時代」です。
 弘前には昼前に着くようにして車を走らせ、Kという蕎麦屋で昼食にしましたが、この店は弘前に住むライターのAさんが蕎麦打ちを習っていた店で、Aさんのお勧めです。最近北海道の松前や江差、青森で盛んに食べられている「ニシン蕎麦」が人気メニューになっているようですが、私は「鴨せいろ」にしました。ちなみに「ニシン蕎麦」はニシンが多く獲れる北海道の食のように思われていますが、実際は京都が発祥のようで、明治15年「松葉」という蕎麦屋が始めたといわれています。北海道から京都に運ばれた「身欠きにしん」を、甘辛く煮て蕎麦の上にあげたもので、最近は北海道の海辺にある観光地で人気メニューとなっています。この日は古本屋を冷やかして、最後に黒石市にある「烏城焼き」の窯元を見学して秋田に戻りました。
(鐙)

北前船の勉強会(7月の講義です)

旧弘前図書館。弘前にはこのような擬似洋館が10数棟残されていて、素敵な町並みを形づくっています

No.270

昔、革命的だったお父さんたちへ(平凡社新)
林信吾・葛岡智恭

 07年にはじまる団塊の世代の大量リタイアを、ある種の新しいマーケットととらえるビジネスエリートたちがいるからなのだろう、最近やたらと「団塊の世代」に向けた本が出ている。それも真正面からバカにしたり揶揄したりするものがほとんどだ。笑われてもからかわれてもかまわないが、この世代の人間がみんなビートルズが好きで、全共闘に共感をもっていた、という前提の論考は論外。流行ものと一笑に付したい気持ちもあるが、筆者もまぎれもないこの世代、何が書いてあるのか、やっぱりちょっとは気になる。本書もその類だろうが書名が刺激的でいい。新書だし面白くなければ捨てればいい、ぐらいの気持ちで読み始めたらこれが面白い。特に1章の「団塊世代、かく戦えり」は勉強になった。戦後日本の新左翼運動をわかりやすくふり返ったのものだが、なぜ新左翼が登場したのかを「左翼」の意味から説き起こしているのは新鮮で、目から鱗が落ちる思い。何人も知らずにガチャガチャやっていたんだなあ。はげしく団塊世代は弾劾しているのは3章の「亡国の世代 やり逃げの世代」で、これも批判というよりは冷静に時代背景と分析しながら論を進めているので、共感は持てる。

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