Vol.289 06年3月25日 週刊あんばい一本勝負 No.285


いまだスランプから抜け出せず

 なにかと身辺に問題多く、あいかわらずバタバタ、落ち着いて「週刊ニュース」の原稿を書けない。画像がないのが、その余裕のなさの証拠、とご賢察いただきたい。何度も繰り返しになり恐縮なのだが、年度末なので夜遅くまでTとWは仕事をしている。夜9時前に帰ることはないし土日もほとんど出社している。Aの検査入院は今月いっぱいで決着がつきそうなので一安心だが、肝心の小生がこの2週間メタメタで仕事に集中できない状態が続いている。本を読むことにも今ひとつ集中できない。精神状態がいささか不安定なためだが、梅田望夫『ウェブ進化論』(ちくま新書)と『グーグル完全活用本』(知的生きかた文庫)の2冊を繰り返し読んでいる(どちらも文系ボンクラ頭には1回でスーッと入ってこないせいもあるが)。「ウェブ」のほうは確かにこれまでのIT関連本と違い、テクノロジーとその思想と現象を、わかりやすい言葉でうまく説明しているので、よく理解できる。ウェブの未来を知る上で絶好のテキストというか問題提起の書で刺激的だ。著者の冷静で広範な目配りには感心したので、再読している。「グーグル」は小生も使用頻度のもっとも高い検索エンジンだが、単純なキーワード検索しか知らなかったので、本を読んで目から鱗。すぐにも実践で使いたい思いに駆られるが、そんなときに限って検索したい項目がみつからない。実践で使わないとすぐに忘れてしまうので、いつも手元においておかなければならない。同じ項目をもう4度ほど読んでるのに頭にすんなり入らないのがボンクラたる由縁である。精神が不安定なときは技術系の本を読むのがいいようだ。人生の深遠なテーマに思いをいたしたり、濃密な恋愛や青春の苦悩を描いた「面倒なお話」を読むよりは、精神衛生上、ずっといいことに気がついた。まあ、それにしても私たちは人類がはじめて経験する、とんでもない技術革新というか産業革命の真っ只中を生きているんですねえ。このことをしっかり自覚して仕事をしないと、とんでもない落とし穴に落ちてしまうことを二著から学んだ。
(あ)

No.285

北京の自転車おじさん(本の雑誌社)
沢野ひとし

 沢野ひとしの本が好きだ。昔から好きなのだが、どこが? と訊かれてもうまくこたえられない。しょっちゅう女性問題を起こし、奥さんや家族に疎まれながら、けっして反省していないのに弱々しく、男の孤独もだらしなさも承知しながら、虚勢を張らず弱みをさらけ出し、興味のあることだけに自分をまっすぐ向き合わせようとする「生き方」がいい。筆者とはまったくキャラクターも姿勢も違うのだが、自分が生まれ変わったら、こんな生き方をしているかも、と思わせる共感(書いてる文章にだが)がある。本書は、旅での日々をつづったものだが、パリでであったカラス女との、なんとも不思議な関係が印象に残る。古い建築物を見に日本の古都を旅するエッセイよりも、パリにアパートを借り、何の目的もなくブラブラ現実と妄想の間を行き来するエッセイが圧倒的におもしろいのだ。パリについて書いた旅エッセイは、自慢話か奇談の類がほとんどなので、本書のように、遠くに出かけるほど何も起きなくなる紀行というのは「うまい」と思う。事件は日常や身辺雑記で起きるのがいいのだ。いつものように、本文のいたるところに使われている著者の絵もほんわか、静謐、透明感があって、すごくいい。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.285 2月25日号  ●vol.286 3月4日号  ●vol.287 3月11日号  ●vol.288 3月18日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ