Vol.290 06年4月1日 週刊あんばい一本勝負 No.286


「ヤング無明舎」は非現実的?

 笑っちゃいますが、この週末は雪、吹雪ですよ。前日の桜の開花予想は4月18日、この雪も想定内での予想です、もちろん。年度末の山もどうやら越えました。検査入院中の編集長Aの不在を埋め、ほぼみんなヘトヘトの状態ですが、20代のアルバイター3人(28歳のH君、22歳のM君、20歳のA子さん)がよくがんばってくれました。力仕事から使い走り、データ入力から細かな報告書作成助手まで、実にフットワークと柔軟性があり、若いっていいなあと、心の底から思いました。ときには過剰に走ったり、とんちんかんなやり取りもありましたが、ロートルな男たち3人(私も含む)を引退させ、この若者3人とすっかり入れ替え「ヤング無明舎」を経営させたらおもしろいかも、なんてことまで考えてしまいました。何のとりえもない田舎の版元ですが無明舎は「無借金経営」です。30年間舎員の給料やボーナスを遅配したことがない、というごく当たり前のことしか自慢のタネがありません。彼ら(ヤング・アルバイター)にこの辺を強調アピールして「不況に弱く、バブルに縁なく、地味で長時間労働だけど、やってみない?」なんて、ナンパ用の誘いの言葉まで頭の中に用意したほどです。世代交代って言葉、甘美ですよねぇ。本がますます売れなくなり、暮らしの中に占める本の文化的地位は凋落する一方です。あえて20代の若者たちがその閉塞感を打ち破るために「出版」というマイナーなジャンルに立ち向かう、ってけっこういい図式ですよね。夢物語ですけど。
(あ)

No.286

ガール(講談社)
奥田英朗

 30代のOLたちの物語である。筆者とは接点がほとんどない「異人種」の生態だが、オジサンとしてはできれば「のぞきみ」してみたい世界でもある。このミステリーゾーンを意外にも男性作家が見事に切り抜いて見せてくれる。さすが想像力のプロである。女性作家が書く同姓の生態小説というのは、逆にいまひとつリアリティに欠ける嫌いがある。これは小生の偏見かもしれないが、平安寿子が、同姓を書かせても、さすがプロだなあと感じさせる物語をつむいでくれるくらいで、女性作家の描いた同姓の物語で感心できるものはけっこう少ないのだ。ここで描かれている5人の若い女性たちの、細やかな心性や生活のディテールは、実は若い女性自身も驚く核心を突いた内面描写なのではないのだろうか。この作家に異性の世界を書かせると信じられない力を発揮する。この著者のほかの紀行エッセイを読んだとき、この人が独身であることを知り、そのことと「異人種」の人生へのリアリティは何か関係があるのだろうか、と考えてしまった。逆に直木賞を受けた『空中ブランコ』はおもしろい作品だが、あそこで描かれる主人公の精神科医はまったくといっていいほどリアリティがない。そこがドタバタコメディの「スパイス」でもあるのだろうが、このへんのキャラクターの使い分けは職人技というしかない。この人の作品は安心して読むことができ、まずハズレはない。

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