Vol.292 06年4月15日 週刊あんばい一本勝負 No.288


はじめまして新人です

 はじめまして。アルバイトをはじめて、ようやく3週間目に突入の「も」です。右も左もわからぬまま飛び込んだ出版と言う世界。即、本作りか! と思いきや、なにも知らない若造がそんな仕事をさせてもらえるはずもなく、毎日、掃除から始まり、前日の売り上げチェック、その日の注文のデータ入力、本の梱包作業、発送、返品の処理であっという間に一日が終わってしまい、気がつけば3週間も経っていました。他の方々がむずかしい顔をして一日中机にかじりついて仕事をしている脇を、あっちにいったり、こっちにいったり、一人せわしなく動き回っています。
 昔から本が好きでした。もちろん「読む」ことも好きですが、本という「いれもの」自体もとても好きです。新しい本を開いたときの、なんともいえないインクとのりの「におい」、アイロンをかけたみたいにパリッとした紙質、きれいで無駄のない長方形の手にとりたくなる立ち姿。そこにただ飾っておくだけで、一つのオブジェになります。時には作者も、その本の内容も知らず、表紙のデザインが気に入っただけで、買うこともありました。そんな「本たち」に囲まれながら、そして、いつかそんな素敵な本を自分が造れることを夢見ながら、今日も一小間使いでウロチョロ走り回っています。これから何度かこのニュースの原稿を書かせてもらいます。よろしくお見知りおきのほどを。
(も)

No.288

中年以後(知恵の森文庫)
曽野綾子

 「かつて自分を傷つける凶器だと感じた運命を、自分を育てる肥料だったとさえ認識できる強さを持つのが、中年以後である。」
 中年以後というのは、出自の部分で受けた毒気を自ら抜くことに成功したすばらしい時期であり、自分の過去を客観的に眺められ、複雑な見方ができるようになる能力が身につく年代だと、著者は言う。若いころ、この人の言うことはちっとも魅力的には思えず、何をとんちんかんな、と思っていたが、このごろは一言一言がストレートに心に響く。彼女の言葉のほとんどが重く、身近で、静かに心を射抜いてくる。私もまた確実に「中年以後」の人生を生きている。「不幸」を「得がたい私有財産」ととらえ、それを貯めて自分の肥料にする時代を生きているという実感がある。「人生の最後に、収束という過程を通ってこそ、人間は分を知るのだとこのごろ思うようになった。無理なく、みじめと思わず、少しずつ自分が消える日のために、ことを準備するのである。成長が過程なら、この時期も立派な課程である。」果たして自分は、今までの既得権益を離れ、風の中の一本の老木のように、一人で悠々と立ち、きれいに戦線を撤収して、誰にも頼らず、過去を思わず、自足して静かに生きることができるだろうか。

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