Vol.293 06年4月22日 週刊あんばい一本勝負 No.289


森で旧友に会う

 先日日曜日の夕方、久しぶりに大学病院裏の森へ散歩に出かけた。音楽を聴きながら考え事をして歩いていると、誰かに見られているような気がして辺りを見回したが、誰もいない。気のせいかと思いまた歩き出すが、やはり何か気配を感じる。もう一度注意深く辺りを見回す。んんっ! なにかが動いた! なんだあれは!? 目をこらしてよく見てみると一頭のカモシカ。じっとこちらを睨んでいる。その鋭い眼光に戦いてしまい一歩も動くことができない。右斜め前方、距離にして60メートルくらいあったろうか。どれくらい睨み合っていたのかわからないが、ヒョイッと首をふってカモシカは森の奥へ消えた。幼いころの記憶が鮮明によみがえってきた。今から16,7年前この裏山は当時飼っていた犬の散歩コースだった。毎日のようにこの山道を歩いていた。そしてその頃から(多分もっとずっと前から)カモシカもこの山にいた。頻繁にカモシカと遭遇していた。ある時は10メートル位の距離で対面したこともあった。いつもカモシカとお互いにじっと見つめ、どちらかが動くまでずっとそうしていた。幼い頃の好奇心とはすごいもので、恐いと思ったことは一度もなかった。あれから10数年近く経ち、山のすぐ横には大きな道路ができ、新興住宅が建ち並んでいる。どんどん変わってゆくこの町で、今も変わらずにいる古くからの友人に会ったような心地いい気分になれた休日だった。
(も)

今週の花

 今週の花は、ナデシコ、カーネーション、コアニー・アリウム。
 ナデシコにもいろいろありますが、これはヒゲナデシコ(髭撫子)。花と花の間の苞が髭のように見えることが名前の由来のようです。英語の辞書で「ナデシコ」を調べると「pinks」と出ます。花色が由来なのかもしれませんが、「ギザギザにする」という動詞の「pink」がナデシコの花びらの縁を連想されることに因むのかもしれません。
 コアニー・アリウムはユリ科の植物で、ネギやニラの仲間です。茎の切り口からネギやニラの匂いがするのかと期待したのですが、残念ながら似たような香りはしませんでした。
(富)

No.289

あの日にドライブ(光文社)
荻原浩

 このごろ小説で面白そうなものをみつけると、たいがい版元が光文社だ。アマゾンで版元名など気にすることもなく本を買うと3割近く光文社の本で、あとから驚くことしばしば。それはともかく最近小説に対する好みが若干変わってきた。小説の主人公の職業を確かめてから本を買うクセがついたのだ。どんな話題の本でも主人公の職業に興味がもてないと読む気が起きない。いろんな仕事(職場)の内幕が知りたい、という欲求は若いころから強かったのだが、その知識をもっぱらノンフィクションに求めて(期待)きたのだが、どうも小説(それも最近の若手作家)のほうが数倍リアリティーあることに目覚めたのである。表題作の主人公はタクシー運転手。この職業についての本は数限りなくあるがこの1冊で十分なほど、職業的な知識や従事する人間の内面の葛藤がよく描かれている。まさに職業を知る上で絶好の資料にもなっているのがすごい。波乱万丈のストーリーがあるわけでなく劇的ドラマが隠されているわけでもないのだが、銀行員からタクシー運転手になった主人公の「日常」と「過去」と「妄想」が見事にミキシングされ、物語に引き込まれているうちにタクシー運転手という仕事の辛さや楽しさが、しっかりこちらにも伝わってくる。

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