Vol.304 06年7月8日 週刊あんばい一本勝負 No.300


ネット書店で変わった「読書の仕方」

 ある作家の本が面白いとなると、次から次に同じ作家の昔の本を買い込み読む癖がついたのは、やはりネット書店・アマゾンの影響だろう。昔はこんな本の読み方をしなかった。新刊が面白くてもその作家の過去の作品を書店や古本屋で探し出すには大変な労力が必要だったからだ。それがいまではネット書店で作家検索をかけると昔の本(主に文庫本)がユーズド・プライス(古書価)でズラズラと出てきて、ほとんどが1円から100円以内で買える。面倒な手続きは一切不要で(ここがものすごく重要)クリックすれば数日で本が手許に届き、代金決済はネット書店がすべて代行してくれる。そのための送料や手数料が340円かかるが、ほとんどの本が500円以内で入手できることを考えれば、高くはない。ここで本(古本)を買い始めてから「(リアル)書店は生き延びられないかも」というのが実感に変わった。とくに地方在住者は何十年も「本がすぐに手に入らない」辛酸をなめてきている。面倒な手続きが要らず新刊も古書も瞬時に入手できるこのアマゾンの「仕組み」にメロメロになるのも致し方ない。そんな事情で、三浦しをん、高野秀行、山田稔といった作家の本の周りをあきもせず何周を回っている。この3人が気に入ったというよりも(もちろん好きなのだが)ネット書店で寄り道の楽しみができたので、なかなかこのサークルから脱出できないというのが本当のところかも。ネット書店の出現は「読書の仕方」まで変えてしまったようだ。
(あ)

No.300

ワセダ三畳青春記(集英社文庫)
高野秀行

 出たばかりのこの著者の『アジア新聞屋台村』(集英社)をいま読んでいるのだが、表題作の姉妹編といった趣で、おもしろい。多くの冒険旅もの著作と、まったく違うテイストの本のほうが、逆にどことなく珍獣探検をしているようなドタバタ気分になるからのだから、おかしい。この著者の本はほとんどハズレがない。才能が安定しているというか、期せずして読者の嗜好から外れない。だからタイトルやテーマの珍奇さとは裏腹に(「巨流アマゾンを遡れ」「怪しいシンドバット」「異国トーキョー漂流記」など)、おどろおどろしさも大げさな表現も皆無である。内容とは逆におだやかで静謐な空気すら文体には流れている。とんでもない冒険をしているのに、まるで他人の恋愛を面白おかしく語ってるような冷静さがある。このへんにこの「冒険作家」の人気の秘密がありそうだ。自分がいかに変わった人間か、ヘンなことをやっているのか、貧乏自慢も鼻高々の冒険話も、この著者の本にはほとんど出てこない。のんべんだらりと暮らす日常を記述するように危険地帯の旅を淡々と記述することは誰でもまねできるものではない。1冊読めば、次の本も読みたくなるのは、才能もさることながら、まっすぐな著者の生き方によるところ大である。

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