Vol.307 06年7月28日 週刊あんばい一本勝負 No.303


なんとなく本が売れているような……

 今年の雪害で痛めつけられた事務所の外壁や屋根、水周りの補修工事がほぼ終了した。保険がおりることになったのはラッキーで、実は保険のことを知らずに工事を発注したのだが、業者さんが「これは雪害なので保険がききます」と教えてくれたのだ。久しぶりにいいニュースだったが、反動はすぐ来た。パソコンが突然クラッシュ、パニックに陥ったのも今週である。新聞連載用の5回分の原稿がパー。ハードデスクが壊れたのでデータを取り出すことができなかったのだ。もう一回同じ原稿を書くのはしんどいなあ。これで夏休みは帳消しになるかも。
 週末は、できるだけ外に出ることを心がけている。先先週は鹿角、十和田まで足を伸ばしたし、先週は横手から山内を抜け岩手県湯田町まで行ってきた。とくに何かするわけではなく街をぶらつき、道の駅に寄り、日帰り温泉でひと風呂浴び(実はあまり温泉が好きではない)帰ってくるだけなのだが、机の前に垂れ込めているより精神衛生上いいようだ。あまりよく知らない県境の町を訪ねるのがこれからの週末の「目標」である。
 ところで、このごろ新刊ラッシュである。めずらしく本がよく売れているような気がするのだが気のせいかな。このところめっきり選ばれることが少なくなった日本図書館協会選定図書に『東北民衆の歴史』と『わらべうた文献総覧解題』が連続で選ばれ、23日の朝日読書欄に『写真集秋田内陸線縦貫鉄道』が写真入で載った。もちろん選定や掲載はうれしいのだが、実は在庫がほとんどない本ばかりなのだ。増刷すればそのまま残ってしまうリスクがあり、そう簡単に決断はできない。もしかすると初版部数を低く低く抑えていることが「売れている幻想」をもたらしているだけなのかもしれない。新聞社や雑誌社からの取材依頼がけっこう増えているのも気になる。個別の本の取材ではなく無明舎出版そのものを取り上げたい、という依頼が増えているのだ。理由はわからない。
(あ)

雪害工事中の事務所正門

取り上げられても在庫がない。

横手の高校生に人気のロングセラー「シューパン」

No.303

シネマ・シネマ・シネマ(光文社)
梁石日

 在日の問題や新宿歌舞伎町を舞台にした血と陰謀と暴力のバッコする小説は、読む側もかなりエネルギーを消耗する。読後にグッタリするのは願い下げだが、宣伝文を見るかぎり本書は映画制作に巻き込まれた作家自身の「等身大」の悪戦苦闘を描いた私小説のようだ。これなら大丈夫だろうと読み始めたのだが、予想にたがわずおもしろい。他人に騙され、うまくいかない家庭や男女間のお話を、絶妙の間とテンポで描いている(実話に近い)。極限の人生を送った作家だからこそ、逆にその波乱万丈の人生の物語以上に何気ない日常のほうが数十倍も魅力的なのだ。小説なのかノンフィクションなのか判別が付かないのもやむをえない。現代の(ここ5年くらいのスパンで見た)物書きの金銭事情や売れっ子具合、社会的ステータスというものが実に興味深く浮かび上がり、そうした観点から実録物として読んでもおもしろい。なかなか明らかにならない作家の仕事場や財布の中身をのぞいている面白さがある。映画制作に関わることで右往左往する作家の金銭感覚、執筆の舞台裏、実生活が余すことなく赤裸々に書かれているから凡百のエッセイなどかないっこない。自分の生身を切り刻んでゼニを稼いでいる、という作家の言葉のリアリティを再確認できる本である。

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