Vol.313 06年9月9日 週刊あんばい一本勝負 No.309


酒田・鶴岡の旅

 週末に隣接する県に1泊2日で小旅行するのが定番化しつつある。今週は山形の酒田と鶴岡。仕事を持ち込まず、もっぱら街を歩き回り、夜は感じのよさそうな居酒屋に入り、後はホテルに入って本を読んで帰ってくるだけ。こんなことでも自分に課さなければ家と事務所に居続けてしまう「ひきこもり」の悪い癖がある。先週は八戸・盛岡だったし、その前の週も男鹿や大潟村に行って来た。月曜日には少々身体に疲れが残る年だが精神的なリフレッシュにはなっているようだ。酒田では三居倉庫、土門拳記念館、鶴岡では江戸期の豪商・鐙屋と本間美術館をじっくりみて、夜は地元酒田の写真家Sさんを誘って、魚のおいしい「浜心」で一献。この店は10年前一人でフラリとはいったら、その日が開店日だったという店で、それ以来、いろんな人に勧めている。翌日も北前船の歴史遺産を訪ねて酒田と鶴岡をフラフラ。昼飯は鶴岡郊外にある最近話題のAというイタリアレストランに行くも行列。あきらめて国道からそれた細い道に入ったところでパトカーに突然追尾。時速30キロぐらいで信号もない道を走っているので、なぜパトカーに止められるのかわからない。国道から脇の道にそれるとき一時停止の白線を無視した、というではないか。君たちはどこに隠れてそれを見ていたの。これは「合法的なカツアゲ」のようなもん。罰金7千円、2点減点で旅行気分は一気にブルーに。いろんなところに寄り道する予定をやめ、腹立ち収まらぬまま家に帰ってくる。
(あ)
三居倉庫
バックミラーのにくきパトカー

角館と本荘の蕎麦屋さん

 前回もお知らせしたのだが、県内で若い人たちの手になる「手打ち蕎麦屋」がたくさんできていることを最近知った。時間があれば食べに出かけているのだが、今週は角館に最近オープンした「角館そば」と由利本荘市の「石碾屋」にいった。実名を出したのはどちらもうまかったから。「角館そば」はまだオープンして間もない店で広島の「達磨」で修業してきた若い人である。名人・高橋さんの薫陶よろしく、蕎麦は冷たいもりと鴨つけそばくらい。店内も清清しくフレッシュで蕎麦の味もピュア。本荘の店も温かい蕎麦や種物は置いていない本格派。酒のつまみは豊富で、酒は「十四代」と「獺祭(だっさい)」。酒を飲むには車を捨てる必要がある。う〜んどうしよう。それにしても蕎麦文化不毛の地、と言われ続けた秋田の地に確実に「蕎麦文化」が根付きつつあるのが蕎麦好きとしてはうれしい。なるべく多く食べに行って営業に貢献するしかやれることはないのだが、とにかく1日でも長く潰れないでほしい。これが本音。秋田には蕎麦を食べる「食習」がほとんどないから、蕎麦屋さんは実は「食べ方」のイロハから教えなければならない。この時点で疲れ果て店を畳むケースが多いからだ。がんばってほしい。
(あ)
角館そばの鴨つけそば
本荘のそばもうまい

No.309

今夜も落語で眠りたい (文春新書)
中野翠

 森下典子が自分のお茶修行の日々を自分史風にまとめた「日々是好日」は楽しい本だった。意表をつかれたのは「お茶の本」なのに、恋や仕事の話が切実で、それらのエピソードを「お茶」が見事にソフィストケーとしているのが新鮮だった。本(主題)というのは文章のうまさや構成よりも、どのような切り口でテーマを料理するか、にかかっているのではないか。本書を読んで森下の本と同じことを感じた。落語の入門書をどのような切り口で料理するのか、それこそがもっとも大きな問題で切り口さへ決まれば本はもうできたも同然だ。本書は自分自身の「落語との出会いから中毒になるまで」を核にして、その章毎にお勧めの落語家とその作品をセットにして紹介していく構成で、押し付けがましさがまったくないのがいい。落語家の好き嫌いに目を奪われるより先に、まず著者のエッセイに引き込まれ、その添え物として落語家とその作品が背景のように使われている。インターネット時代の入門書やガイドブックは押しなべてこうした「芸」がないといけない。わざわざ紙の束にお金を払わなくても、ネットでは無料でどんなジャンルの「リスト」でも瞬時に提示してくれる世の中だ。

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