Vol.314 06年9月16日 週刊あんばい一本勝負 No.310


絵を見る弘前、青森の旅

 週末は弘前、青森市へ美術の旅。期限限定で開催されている「奈良美智Ato Z」を観るための弘前行き。奈良の例の漫画チックなキャラクター絵が世界的に評価されている意味が小生にはまったくわからない。一度現物を見て、たぶん擦り切れて薄っぺらになりかけている自分の感性にガツンと刺激を与えてもらいたい……ってなことを考えながら弘前市内にある会場の吉井酒造煉瓦倉庫に向かったのだが、まあ、正直なところその展示の規模からデスプレー、あの少女の発する不思議な深いオーラに圧倒された。なるほど世界を驚かせた一端ぐらいはわかったような気分。同時にこの個展は彼の生まれ故郷の弘前以外では絶対に不可能(スペース・ボランテア・地元の支援などを金に換算すれば数億円の必要経費がかかる)なので、東京の有名人や美術ファンもわざわざここまで足を運ばなければならない。その仕掛けも見事というほかない。大都会での巡回公開は不可能だからマスコミも弘前までやってこざるをえないのだ。夜は印刷所のK社長と一献。翌朝はK社長の車で青森市の三内丸山遺跡の中にできた青森県立美術館へ。まだオープンして日が浅いのだが常設展の作家が棟方志功に寺山修司、奈良美智というのだからすごい。弘前から青森に向かう途中の浪岡で「土蔵のアトリエ美術館」といわれる常田健美術館に寄る。ちょうど次の展示会のために絵の入れ替え中、田んぼと住宅地のなかにひっそりと建っている美術館に好感。日曜日だったせいもあるのだろうが、青森県立美術館の前(ということは三内丸山入口)は車が渋滞し、美術館は入場待ちの長蛇の列。地方都市で「行列」に遭遇するのはきわめて珍しい。入場をあきらめて三内丸山を散策。この遺跡は何度訪れても驚きと新鮮さを与えてくれる。青森駅から電車に乗り、昨夜もホテルでやめられらなくなったジェフリー・アーチャー『ケインとアベル』下巻を夢中になって読了するころには秋田に着いていた。
(あ)

No.310

〈郊外〉の誕生と死 (青弓社)
小田光雄

 著者の出版論は何冊か読んだことがあるが、もともと出版経営に携わる前はロードビジネス、土地活用業務を本業としていたので、そんなに驚くような異質のテーマではないようだ。知らなかった。「村から郊外へ」というプロローグが面白い。自分史をなぞって社会の変遷を身近なところから論じているからだろう。1950年第1次産業就業人口比率48.3l。1960年第1次産業就業人口比率30.2l。1970年第1次産業就業人口比率17.4l。1980年第1次産業就業人口比率10.4l。1990年第1次産業就業人口比率7.2l。この数字がすべてを物語っている。稲作を中心とするアジア的農村共同体の典型的な「村の暮らし」がこの半世紀の間にどれだけ激しく変貌していくかを自分史とからめながら論じた「プロローグ」だけでも読む価値がある。アメリカ型の郊外型消費社会は、自動車の普及と国民全員が消費者になることで一挙に進化していくわけだが、そのプロセスがわかりやすく丁寧に描かれている。第4章の「郊外文学の発生」も著者ならではのユニークな章立てだろう。現代作家たちの創作の背後にあらわれる「郊外」を丹念に拾い出し、時代と作家の関わりを読み解いている。

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