Vol.32 4月7日号 週刊あんばい一本勝負 No.29


山形・高畠町の魅力

 有機農業や都会からの移住者の多いことで有名な山形県高畠町に行って来ました。来年出す予定の「十年たった帰農者たちのレポート集」の一回目打ち合わせのためですが、出席者の半数が若い帰農者で、それを見守る高齢な町や農業関係者の間のコンビネーションがいいのに感心しました。とにかく人間の温かさが前面に出ている気持ちのいい町です。「これだから移り住んでくるわけだ」と納得しました。しかし高畠は遠い。秋田から秋田新幹線で盛岡まで行き、そこから東北新幹線に乗り換えて福島まで、さらに山形新幹線に乗り換えて高畠まで、なんとお隣の県に行くのに三つ新幹線を乗り換えて五時間以上かかるのですから尋常ではありません。それでも、町の魅力に勝てず出かけてしまうのですから、多くの人たちを引きつける目に見えない魅力があるようです。この日も、将来は移住したいという仙台・宮城大学の先生ご夫婦が見えていました。打ち合わせ後、調子に乗って「高畠の星」こと星寛治さんを引き込んで二次会(宿のなか)までつきあってもらいました。
(あ)

モダンな高畠駅舎・この中に温泉がある

むのたけじさんに会ってきました

 羽後町の高橋良蔵さん(農民運動家)にご一緒してもらい、横手市に住むむのたけじさんとお会いしてきました。お会いするのは四回目なのですが、これまではお会いしてもじっくり話す機会はなく(実は三年前NHKの仕事でインタビューにきた佐野眞一氏を案内して来ているのだが)、今回初めてじっくりとお話をする機会をもうけていただきました。前日から丹念に資料を読み、興奮で眠られませんでした。八十六歳になられたというむのさんは、以前より(テレビなどで拝見したとき)少し太られて丸くなったように感じられましたが、舌鋒の激しさはあいかわらずで、論理は明確かつ鋭く、全く老いの影がないのに心底驚いてしまいました。そのお元気さに良蔵さんと目を白黒させながら二時間以上「むの節」を堪能してきました。「八十代になってようやく確信を持って断言できることが多くなった。これからが勝負。これまで書いたものは甘くてダメ。これから四,五年でいいものを残すつもりで毎日机に向かっている」とおっしゃられ、私たち二人は大きな声で励まされました。いやはや怪物です。
(あ)

むのさんと

朝はブラジル産インスタントコーヒー

 コーヒーを飲むのは出舎して飲む朝の一杯だけである。午後から飲むと夜眠れなくなるし、田んぼのなかの会社なので近くにしゃれた喫茶店があるわけでもない。とにかく朝の一杯だけなので、いい豆でとびきり香り高いものを飲むようにしてきたのだが、最近、年とともにそういったことがどうでもよくなった。居酒屋に行っても出される熱燗の酒を飲んでそれで満足で吟醸酒だ、焼酎だ、とほざいているのが虚しくなってしまった。で、最近はブラジルの友人からいただいていたコーヒー(粉)を飲んでいたのだが、あのコーヒー王国のブラジルでものすごく人気のあるインスタントコーヒーがあると聞き、送ってもらったのがこれである。これがおいしい。風味や高尚な香りこそないがミルクをたっぷりめに入れアイリッシュウイスキーなぞを垂らすと挽きたてのものとほとんど遜色がない。しかも、いい気になって高い豆を買ってたときに比べれば二十倍くらい経費節減になるほど安いのだ。手ごろで簡単なせいか一日三杯に飲む量が増えたのは問題だが。
(あ)

これがブラジル産ネスカフェ
隣はアイリッシュウイスキー

北前船の取材へ

 今年は何本かの大掛かりな取材を必要とする企画が並んでいて、その準備に毎日何時間かを費やしています。そのひとつが北前船の企画ですが、これは近畿、中国、四国、山陰、北陸、東北、北海道と100ヶ所ほどを広範囲に取材するためその準備も大変です。取材先に事前に取材許可をもらい、資料を集め、場所を確認するという作業を延々と続けています。取材は順調に行って50日ほどかかる予定で、そのスケジュール調整も大変です。担当ライターとなる加藤貞仁さんも、正月明けから資料の読み込みを続けていて、頭の中は北前船で満杯状態のようです。取材は今月下旬から開始しますが、準備ですでに仕事の半分は終わったような気分になっています。この他にも5冊ほど取材準備が大変な企画があり、編集作業の合間に同僚の富山の協力を得ながら作業を進めています。
(鐙)

図書館の斎藤亮子さん

 今までアルバイトに来てくれていた斎藤亮子さんが、4月から秋田県立図書館で働くことになり、3月いっぱいで辞めてしまいました。斎藤さんは明るい性格だったので、いつも舎内が賑やかでした。彼女が来なくなってから事務所は皆が黙々と机に向かって仕事をする以前の状態に戻ってしまい、寂しいかぎりです。できればもっと続けて欲しかったので残念です。
 今日、図書館に調べ物をしに行った際、書架の間で働いている斎藤さんを見かけました。一生懸命な様子を見て安心しました。がんばれ、斎藤さん。
(富)

No.29

森達也(飛鳥新社)
スプーン

 『「A」撮影日記』がめっぽう面白かったので期待を持って読んだが、はずれなかった。のっけからピエロ役を演じるバラエティ番組の超能力者たちが、きわめて醒めた知的人物たちであることが描かれて、「やっぱりか」と驚きのなかに読者は放り込まれる。逆に最後まで「正義(視聴者)の味方」であるO教授は人間として重大な欠陥を持った偽善人間に描かれている。スプーンまげの清田、UFOの秋山、ダウンジングの堤の3人が主人公なのだが、著者は清田のスプーンまげの現場を何度か目の前でみているのに、そのことに重きを置こうとせず、逆に清田のだらしなさをとがめ、弟のように愛おしさを隠さない。こうした視点も彼独特のものである。オウム取材でも似たような記述があり、彼にとっては社会から抹殺されかかったものと自分との距離を測るための取材プロセスを記録することがドキュメンタリーになっている。

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