Vol.332 07年1月20日 週刊あんばい一本勝負 No.328


東北かけあし旅行顛末記

 盛岡で「さわや書店」のI店長と会い1時間半ほど雑談。Iさんは『天国の本屋』をポップひとつで大ベストセラーにしたカリスマ書店員。共通の友人も多く話が弾む。そのまま仙台に移動。大きな書店を何軒か回ったのだが、どこでも「永沢光雄フェアー」をやっていない。これには肩透かしをくらわされた。亡くなったのは去年だが新聞に公表されたのは年明け。地元仙台ではかなり衝撃を受けているのでは、と勝手に想像したこちらがバカだった。でも「さわや」のIさんなら間違いなく大々的に追悼フェアーを打っていたはず。
 ある出版パーティで永沢光雄さんとお会いしたとき、彼に、「秋田に無明舎があるのに、どうして仙台にはなんにもないんですか」と訊かれたことがあった。その言葉のあとに「自分の故郷だけど、仙台ってホント、ダメなところなんですよ」とつぶやいていたのを思い出した。最近中心地にできた大型A書店の書店員に「永沢光雄フェアー、やらないんですか?」と訊いたら「ハァ?」と怪訝な顔をされ二の句が告げなかった。彼の『AV女優』は日本ノンフィクション界の古典だと思うんだけどなあ。仙台は好きな街だが、こんなところがちょっぴり不満。
 夜は小舎の愛読者で、よくお手紙をもらう一番町のお店で一献。そのご主人Kさんが、東京オリンピックのヘーシンク戦で激闘を演じたあの神永選手のお兄さんであることを知り、椅子からずり落ちそうになるほど驚く。
 翌日は山形市へ。印刷所の小舎担当のFさんと一献。中国大連事務所から日本に帰ってきたばかりのFさんは「日本の料理は美味しい」を連発。でも山形市内の2軒の店は暗澹たる味で、もうもうたるタバコの煙に喉と頭がおかしくなり料理どころではなかった。3日目は酒田へ。ここは完全休養日で仕事はなし。常宿にしている「酒田リッチ・ガーデンホテル」へ。山居倉庫の向かいにあり6千円台で泊まれる。それでいて清潔で高級、室内装飾もセンスがいい(飾られている絵や写真のセンスもすばらしい)。朝食のバイキングも美味しいし、従業員も洗練されている。たぶんこのクラスのホテルでは東北随一だろう、と小生は確信している。今回、仙台で泊まったライブラリーホテル(新築6千円台)もいいビジネスホテルだったが、酒田リッチはリーズナブルな高級シティホテル、という域に達している。お勧めです(駅から遠いのが難点ですが)。
 夜は一人で産業会館内にある「レストラン欅」で食事。これがまた近年まれにみる大ヒット、その美味しさをゆっくり反芻しようと、わざわざホテルまで長い距離を歩いて帰ったほど。食事でこんなに感激したのは何年ぶりかなあ。リーズナブルないいホテルと美味しい飲食店があれば、その町に何度でも行きたくなる。町おこしなんて簡単なことなのになあ。
(あ)
遊佐駅から見える鳥海山
盛岡駅内にあるさわや書店の
入り口は地方出版物コーナー
新庄市の<さぶん>の
蕎麦はうまかった

No.328

家族は孤独でできている(毎日新聞社)
石川結貴

 個人的に強く確信していることだが毎日新聞からでる現代ルポはまず外れがない。逆に言えば他の出版社から出る「現代の病理をえぐる」類のルポは羊頭狗肉が多い。毎日のノンフィクションが面白いのは、自社の新聞や週刊誌に連載して評判を呼んだものを他社に渡さず、自社で出版するという姿勢を貫いているからだろう。毎日の出版部は他の新聞社に比べて実績もあり、部署として高いステータスにあるのかもしれない。本書も抜群の面白さ。のっけから「飢える子供たち」で全力疾走し、200ページ弱の本を2時間ほどで読み終えさせてくれる。家族崩壊などという手垢にまみれた概念を、豊富で説得力のある実例(総務省のデーターに頼らず)で鮮やかに現出させる著者(記者でなくフリーライター。ちなみに媒体はサンデー毎日)のチカラ技(取材力)には脱帽。女性という特権(この本の場合)も十分に活かしきったルポである。うまくいく、通じ合う、そんな前提のもとで家族の「正しさ」を追求することは現実の家族との乖離を招くだけ、という著者の主張はよくわかる。「たまにうまくいった、少しだけ通じ合った、それでも家族はやっていける。家族する、孤独する、そんな両面を行ったり来たりしながら暮らしていく、新しい形の幸せが求められている。

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