Vol.328 06年12月23日 週刊あんばい一本勝負 No.324


新刊、近刊、目白押しの年の暮れ

 4回目の冬のDM出しが終わった。これで年末の大きな仕事が片付いたわけだが、さて売り上げはいかに。ま、あまり大きな期待はしないでおこう。新刊の特徴は「岩手もの」が多いことだろう。『写真集 花輪線』『写真集 釜石橋上市場』が新刊で、『岩手の滝』『日帰り 岩手の温泉』が来年2月に出る。同じテーマや地域の本が立て続けに出るのは、わが舎の伝統的怪奇現象(?)なので驚きはしないが4冊すべてが写真集かヴィジュアル本でなおかつ岩手ものというのはちょっと珍しい。こんなことはこれまでもなかったなあ。異例といえば来年早々1月の新刊は4冊。1月という時期に新刊が4冊も出るというのは近年なかったことである。そのラインナップは、秋田の児童文学者たちの作品集『空を飛んだきつねとたぬき』、小説集『風のしおり』、先にあげた『釜石橋上市場』そして月末に復刻版『訳万葉』という大きな本が出る。この『訳万葉』はHP紹介を見てもらえれば詳細がわかるとおもうが、昭和30年に刊行されて話題になった万葉集全首の口語訳。音の数、行数を違えず、韻律をそのまま踏んで口語訳したというすさまじいもので、当時、大舘氏在住の高校教師で万葉研究者の手で私家版が出され、それを筑摩書房がすぐに単行本化、後に日本古典文学全集にまで収録したのだが、単独ではもう入手不可能な「幻の本」なのである。定価が12600円と個人ではなかなか手が出せない高価なものだが図書館や公的機関ではぜひ1冊常備して欲しい本。限定300部なのでご注文はお早めに。
(あ)
花輪線
釜石橋上市場

No.324

野球の国(光文社文庫)
奥田英朗

 沖縄や四国、台湾から東北へと地方球場を訪ね、ファームの試合や消化試合を見て歩き、書かれた旅のルポである。そんなもん誰が金を払って読むの、といわれそうだが、この著者に限って「はずれ」はない。とにかく面白い紀行エッセイ、お勧めである。べつだん野球でなくとも、この作家が書けば、競馬でもお城でもコケシでも、たぶん珠玉の旅のルポが出来上がるのは間違いない。なにがそんなに面白いのか、一言で言うのは難しいのだが、視線が読者と同じ辺りにある。だから読みはじめるとやめられない。旅先で寄り道する映画館やラーメン屋、洋服のこだわりやトホホな独身生活、見事にきっちり東京での日常をズルズルひきずってしまう、その情けなさが見事。ところどころにきらりと光る「説教」も隠されている。その切れ味は鋭い。テレビの安ドラマやCMで甘やかされるタレントの出る日本映画を嫌悪し、日本では「実力だけがものをいうプロスポーツだけがまともだ」と吼えまくる。旅先でふらりと入ったある有名女性ジャズ歌手のコンサートを「コテコテの関西ギャグ、ダミ声の関西弁、しかもくどい。ううっ。助けてくれー」と、これまた正直でまったく同感。ひたすら地方の一番高いホテルに泊まろうと努力したり、地元ガイドブックは本屋の立ち読みで済ますのに、この取材そのものは出版社の経費でなく「自腹」であること。これはすごい。

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