Vol.337 07年2月24日 週刊あんばい一本勝負 No.333


東京マラソンぶるぶる応援記

 今回の東京3泊4日の旅は有意義だった。いろんな人たちと会えたし、めったにできない体験もした。新宿ゴールデン街はあいかわらず(といってもそれほど知ってるわけではないが)だったし、「地方・小」のK氏と休日に久しぶりに渋谷の「くじら屋」で食事。友人のSさんと食べた麹町「根本」のサバ味噌煮定食は絶品で、尊敬するY出版社・Mさんとの会話は楽しかった。
 でも、なんと言ってもハイライトは東京マラソン。マラソンを生で見るのは初めてなので楽しみにしていたのだが、とにかく寒かった。寒さには自信があったのだが薄着をしていたせいか震え上がった。小雨に強風、朝早い暗い空の神保町に車がゼロ。横を通り過ぎた中年のカップルが「会葬の礼以来ね、こんなの」とつぶやきながら通り過ぎた。交差点で交通規制する警官に「広報が徹底していない」と殴りかからんばかりに食って掛かる若者がいた。靖国通りと外壕通りが交差する7キロ地点のエイドステーションでの応援。そばにいたマスコミ関係者が「先ほどスタートしたもよう」と無線でやりとりしている数分後、水道橋方面からパトカーに先導されたランナーたちの姿が見えた……が、これはいかにも速すぎる。車椅子ランナーたちだった。猛スピードでパトカーが近づいてくる意味がわかった。写真を撮ろうとしたが速すぎてあっという間に通り過ぎてしまったのだ。上半身の大きさが普通の日本人の2倍ほどある。「外国人メダリストの招待選手だ」という声が後方から聞こえた。車椅子ランナーの最後尾が通り過ぎたあたりからトップランナーたちの姿が見えた。これもあっという間に通り過ぎる。有森も鈴木宗男も興味はない。今回の応援は同じスポーツクラブに通うIさんの応援だ。Iさんの容姿を頭に思い描きながらランナーたちを凝視しているのだが、ランナーのかたまりは徐々に巨大になり、一人一人の顔を判別するのは不可能だ。こちらの沿道沿いを走ってくれるのを祈るしかない。外国人ランナーがやたら多い。視覚障害者や両手のないランナーの姿も。一人おかしげな旗をもって後ろ向きに走っている老人がいた。どう見てもフルマラソンを走れる体型をしていないデブ系がたくさんいるのもショック。走法を見ているとある程度、ランナーのレベルはわかる。時間が経つにつれランナーの走り方がプロからアマチュアのそれに変わるのがよくわかる。その境目あたりになってもIさんの姿を見つけることはできない。「見逃してしまったかな」と帰ろうとしたとき、道路の反対側からIさんが「アンバイさ〜ん」と白い手袋を振ってこちらの沿道まで横切ってきた。アチャ、ランナーに発見されてしまう応援者というのも間抜けな話だ。Iさんが通り過ぎた後は沿道の喫茶店に入り、入り口の窓からサンドイッチとコーヒーの朝食をとりながら最後尾まで見届けた。喫茶店にトイレを借りに来る女性ランナーが多いのに驚いた。その後、有楽町まで出てビッグカメラで買い物を済ませ、銀座に出ると東京は元の青空に戻っていて、マラソンの最後尾がちょうど通り過ぎたところだった。銀座が21キロ地点だった。
(あ)
車椅子のトップランナー
このへんから走法が乱れ始めた
沿道の喫茶店で朝食
銀座21キロ地点の最後尾ランナー

No.333

秋の四重奏(みすず書房)
バーバラ・ピム

 不思議な読後感の残る小説だ。これだけ暗い孤独とせつない老いを描いているのに、まるで昼飯にサンドイッチを買いにいくような気楽なトーンが全編に流れている。舞台はロンドン、全員一人暮らし、定年まじかの男女4人が同じ会社の、たぶん推測するに「窓際の部屋」の住人で、かれらが主人公である。物語はこのうち2人の女性が退職、それをきっかけにモソモソと物語が動き出すのだが、互いのことをいたわり心配しながらも距離感に斟酌し、うろたえ、激怒し、不安になり、くたびれはてる4人の心象風景を淡々と描いている。解説には「4人のありふれた<老い>が、この味わい深い上質のユーモアに満ちた<コメディ>の核心をなしている」と書かれているが、ユーモラスという表現が妥当なのか、極東の島国の田舎に住む小生には、少々理解の外。ロンドンが舞台になっただけで、同年代の紳士淑女が機知に長け、人生と斜に向き合い、深い洞察力をもっている、と考えるのは偏見だろう。人の生死に関しては都市も田舎もロンドンもバンコックも秋田も変わらない。「人生のプロ」なんて存在しないと思うのだが、なんとなく大都市ロンドンの、そこで生きる人たちの会話や生き方には、特別な思慮深さや知性を感じてしまうは、こちらの単なるコンプレックスだろう。

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