Vol.340 07年3月17日 週刊あんばい一本勝負 No.336


雪・スパム・写真集

この1週間ずっと雪が降っていた。すぐ消えてしまう雪だが、雪が降っているとなぜか「冬だもんな、まだ」と妙な安堵感がある。雪が降らないと本当に日常生活は快適なのだが、夏に水不足というしっぺ返しが待っているから心のどこかにはかすかな不安と焦燥感が不完全燃焼のような形で残ってしまう。やっぱり雪国には雪が必要なのだ。3月いっぱいなら、多くは降らないというと条件付で雪OKだよ。
これも毎日のことで、ウンザリを通り越し、意識して何も考えないようにしているのだが、ネットのゴミメール。毎朝、仕事をする前に削除作業に没頭しなければならない腹の立つスパムメールだが、「SPAM」という言葉を削除メッセージに入れれば、かなりのものを排除できることがわかった。とにかく100通近いスパムメールの削除から始まる異常な1日が、これで少しでも軽減されれば、それだけでうれしい。少しは気分のいい朝になるかも。
今年の木村伊兵衛賞は25歳の梅佳代さんに決まった。小生の「1本勝負」で数ヶ月前に取り上げた写真家だ。「うめめ」という彼女の写真集は面白かった。写真集でゲラゲラ笑ったのは絶えてなかったことだが(南伸坊の顔写真集くらいか)、木村伊兵衛賞とはビックリ。でも自慢させてもらうと「1本勝負」で取り上げた新人作家がその後、賞をとる確率はかなり高い。その木村伊兵衛だが名作といわれる『秋田』を撮影中、彼に同行、案内した秋田市在住のカメラマンの作品集が今度、小舎から刊行されることになった。タイトルはズバリ『写真集 秋田』。木村の背後から同じアングルとテーマで撮った作品の中には、本家の木村よりいいものもたくさんある。遠景としてカメラを構える木村の姿が映っている作品もあった。この作品集を監修していただいているプロカメラマン・英伸三さんとの打ち合わせがあり今日から東京出張なのだが、どんな写真集ができるか、いまからワクワクしている。
(あ)
散歩コースの近所の神社の雪景色
梅佳代と英さんの写真集

No.336

無口な友人(みすず書房)
池内紀

 この著者に「ケセン語大辞典」という大型本の書評を朝日新聞に書いていただいたことがあった。今度は「月刊現代」に歩青至著「少年」の書評を書いていただいた。こんなに一方的にお世話になっている方なのにいい読者ではなかった。この表題作が初めてちゃんと読んだ本だ。すみません。名のある大学のドイツ語教授の職を投げ打って、明日をも知れぬ文筆業に身を投じた人、ということは知っていたのだが、こんなに潔よい、ある意味できっぷのいい元学者がいる事にホコホコとあったかいものを感じた。こういう人がいれば活字文化もそうかんたんには廃らないぞ、と心強い気持ちになる。人間として高潔で自由、孤高でありながらやわらかい精神の持ち主なのが、読んでいると文章の背後から匂い立ってくる。いっぺんで病み付きになり、みすずの既刊本を注文してしまった。大言壮語しない。身の回りにあるものへ気配りする。しゃしゃりでない。一流を尊ばない……これまでの人生で一度もテレビを買ったことがない、というくだりには驚いたが、それもけっして自慢にはしない。いいなあ、こんな人。自己顕示欲の塊のような硬直した凍えた精神を、じんわり溶かして温めてくれる見事なエッセイ群だ。

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