Vol.351 07年6月2日 週刊あんばい一本勝負 No.347


活字の潮目と十割そば

 いい天気が続いて、気持ちがいいですねぇ。秋田は今頃が一番良い季節なのかもしれませんね。
 あいかわらず太平山だ、八幡平だ、街道だ、と外で遊びこけ、合い間に近所のスポーツクラブのエアロビクス教室に週3回も通っています。まるで定年退職してフィットネスに夢中になっているオヤジ状態ですが、ボチボチ仕事もしています。6月は年4回のDM通信を出す月、新刊は少ないのですが、けっこう忙しくなりそうです。
 でも昔に比べたら、仕事はかなりマイペースです。地方の片隅からではありますが、出版業界の大きな「潮目」のようなものが、よく見えるようになりました。今はあせったり不安になっても詮無いこと、少し傍観者的に活字の危機的状況を見ているところです。活字業界が借日のような隆盛を取り戻すことはもうないと思いますが、それはそれ、別の興味深そうな「入り口」や「出口」が思いもかけず活字の世界からひょっこりと顔を出すのでは、と業界の隅々をキョロキョロ眺めまわしているところです。
 ところで、最近、街でよく「十割そば」という幟を見かけます。秋田は昔から米どころなので蕎麦屋さんが少ないところです。ですがここ5年、減反田に植えた蕎麦を「有効利用(?)」するために手打ち蕎麦屋さんが急増しています。農家レストランやグリーンツーリズムといった農業政策との絡みもあります。減反で「ヤムナク」つくっていた蕎麦は補助金目当てで、収穫しても捨てていた農家が多かったのは、蕎麦を食べる習慣がなかったせいもあります。
 それが、いきなり十割そばです。地方に行くと道の駅やコンビニでもこの十割そばの看板を掲げているところが目に付きます。自分で蕎麦を打ったことのある人ならわかると思うのですが、つなぎ粉を使わず蕎麦を打つのは素人にはほとんど無理、かなりの技術が必要なのです。その夢の十割そばがコンビニで食べられるというのですから最初は目を疑いました。いったい、どういうことなの? と周辺を取材してみると、なんと「つなぎなしで打てる自動蕎麦打ち機」なるものが、岩手のある人物によって発明され、この会社が自社製麺の十割そば販売を北東北中心に行っているのだそうです。どうりで、看板にはどこにも「手打ち」とは書いていません。なかなか面白そうなので、この岩手の会社を引き続き取材してみたいと思っているのですが、食べた感想は、って? けっこううまいんですよ、これが。
(あ)
岩手県の七時雨山山頂で
アルプスのハイ・爺(藤原優太郎さん)
こんな看板見たことありませんか

No.347

わたしたちに許された特別な時間の終わり(新潮社)
岡田利規

 作者は岸田戯曲賞作家。73年生まれだからまだ30代の若さだ。第49回岸田戯曲賞をとった「三月の5日間」を小説化したのが本書だ。初小説集になるのだが、オジサンにはよくわからない。いや書かれている一つひとつのシチュエーションはよくわかるのだが、なんとなく意識してダラダラしすぎているのが、普段身についた小説を読むスピードと誤差が大きすぎて、低通音になっている音楽がこちらに響いてこない……とでもいったらいいのだろうか。酔っ払って六本木のライブハウスに向かうミノベと鈴木、東とユキオ、安井と石原の6人の男たち。この6人はすべて東京都知事の名前をとっているのだが、そのなかから一人の主人公が抜け出して、ライブハウスの客だった女性と渋谷のラブホテルで4泊5日セックスをしまくる。イラク空爆の反対デモでかまびすしい渋谷の街と無関係に、ただひたすらラブホに閉じこもりセックスする男女二人の物語なのだが、読み終わっても、何が言いたいのかよくわからない。オジサンはもう過去の人だ。「演劇というシステムに対する強烈な疑義と、それを逆手に取った鮮やかな構想が高く評価され、とらえどころのない日本の現状を、巧みにあぶり出す手腕」が注目の作家なのだが、もう1篇収録されている「わたしの場所の複数」はまだ味読。

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