Vol.377 07年12月8日 週刊あんばい一本勝負 No.343


華やかなパーティに出てきました

 久しぶりに華やかなパーティーに出席してきた。
 古い友人(先輩)である山口県のマツノ書店・松村久さんが菊池寛賞を受賞したのだ。
 記念式典はホテル・オークラのコンチネンタルルーム。ここは前に山際淳司さんのお別れの会で来たところだ。
松村さん以外の受賞者は阿川弘之、市川団十郎、桂三枝、小沢昭一といった方々で、各自のスピーチに大笑いした後、最後が松村さん。巻紙に書いてきた文章を読み、朴訥に飾らず無難に切り抜けたのはさすが。それにしても桂、小沢という日本を代表する話芸の達人の直後にスピーチしなければならないというのは、どんな気持ちなのだろうか。このスピーチの順番だけで受賞を返上したくなった、とは当人の弁。
 授賞式の後はそのまま主催会社・文藝春秋の忘年会パーティー、周辺のほとんどが高名な物書きばかりだった。知り合いの朝日の記者が「ここに爆弾しかければ日本の文化は滅びるね」といえば、辛口のある出版社社長が「そのほうが、よくなるかもよ」と受けていた。
 かろうじて知っている秋田出身の作家・西木正明さんをみかけたので、ご挨拶。秋田駅前に出店したばかりのジュンク堂のO専務には「出店広告ありがとうございました」と声を掛けられた。地元紙に出した小さなご祝儀広告を本社の専務がチェックして覚えているのだ。30年以上仕事をしていて地元の書店から「新聞広告ありがとう」なんて声を掛けてもらったことは1度もない。
 もう一つ、印象に残ったのがパーティーの料理。メインはお鮨で10人近い職人が会場の一角で握るのだが、ここには長蛇の列。10分ほど待たされて食べてみたのだが、これがうまい。エッ、すごい、と店の名前を確認に行くと職人の白衣の胸に「久兵衛」の刺繍文字。なるほど、うまいわけだ。いやしく2回目にチャレンジしようと思ったが列があまりに長いのでやめた。
 たまにはこうした別世界にも出席して、自分の狭い世界の反省をして見るのも悪くありませんね。
(あ)
受賞者です。真ん中の女性は講談社社長です
これが話題の鮨コーナー
この人が山口県・マツノ書店の松村さん

No.373

心のままに(毎日新聞社)
山田一成

 「いつもここから」というお笑いコンビは、なんとなく痛々しくて、腹のそこから笑えない「なにか」を感じていた。茨城出身を前面に出し、垢抜けないキャラクターで「なまりのある暴走族」を全力で演じていた。あの「全力」が痛々しかった。たぶん、すぐに消えるだろうと思っていたら本当にすぐいなくなった。が、ナントその片割れは作家になって活躍していた。これは知らなかった。劇団ひとりの小説もなかなかだったが、ストーリーテーラーとしてはこっちのほうが上かも。意外にも東京生まれ(茨城ではなかった)で、さえないサラリーマンのおじさんを主人公にしているあたりに自分小説ではない、力量と将来を感じさせる。身近にいる若者の生態を描くのは簡単でも、異なる視点や想像上の人物から物語をつむぎだすためには、かなりの取材や準備がなければ不可能だ。主人公のおじさんがネット小説でベストセラー作家になった後の展開が少々不自然だが、前半部の登場人物たちが後半はそれぞれ主人公になり、全体像が鮮やかに浮き上がってくる構成もなかなか見事だ。人物を丹念に書き込んでいなければできない技だ。このままずっと書き続ければ、エンターテインメント作家として大成する可能性もあるのでは。

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