Vol.404 08年6月14日 週刊あんばい一本勝負 No.400


高い傘と安い背広と原稿読み

そろそろ雨の季節ですね。今日もシトシト降っています。雨は嫌いではないのですが、山に登るようになってから週末だけは晴れて欲しい、と切実にエゴイステックに思っています。天気の善し悪しは山では「決定的」で、今週はダメみたいですね。
雨なので傘の話です。10数年前、何をトチ狂ったか、通販で1万5千円もする傘を買ってしまいました。一生モノだから、などという理由だったのでしょうが、けっきょく、外出先でなくしてしまうのが怖くて、ずっと倉庫に眠ったままです。こういうバカな行為を揶揄したうまい俚言がありましたが、今、思い出せない。誰か教えて。

暑い中、葬儀が続きました。10数年前に造った礼服は冬用1着のみで、思い切って夏用フォーマルスーツをあつらえることにしました。根拠はないのですが冠婚葬祭は「夏」がなんとなく多いような気がしませんか。普段からスーツを着ることはほとんどないのですが背広は市内にあるWテーラーでオーダーメイドします。夏のフォーマルもこの店で仮縫いをすませました。この店は編集長の親戚で、腕の良さには定評があります。20年以上前につくったスーツを、体型が変わるたびに直してもらい、小生は今も着ています。昔も今も1着つくるのに20万円はかかりますが、20年以上何の問題もなく着続けられるのですから吊るしよりは圧倒的にお得です。高額の傘について書いたら、オーダーのスーツのことを、釣られて思いだしました。

毎日、長い原稿を読んでいます。半分はボツ(出版できないこと)になりますが、出版は難しくても内容が抜群に面白い原稿というのがあるので、手が抜けません。出版できないのに面白い、というのは矛盾のようですが、面白さの「質」が大手出版社向きで、販路や資金、宣伝力のない零細田舎出版社では逆立ちしても出版が無理な内容(詩集とが戯曲とか小説の類ですね)のものをいいます。たぶん大手が不況を理由に企画リストラしているため、こちらにそうしたレベルの高い原稿が流れてくるのかもしれませんね。
原稿を読む合い間に、新聞や雑誌に連載している原稿を書き、毎日毎週あるHPの更新もします。なぜか最近は来客も多く、家には食事しに帰るだけです。ヒマよりは忙しいほうが楽、と信じて日々を過ごしています。
(あ)

No.400

かもめの日(新潮社)
黒川創

 黒川さんの小説は比較的読んでいるほうだと思う。いつか大きな賞をとって華々しく文壇に登場する人だろう、と思っていた。「思想の科学」編集長だった時代から名前は存じ上げていたし、うちのDM愛読者のようでもあるし、若いのにマルチな才能を持った人だなあ、という畏敬の念を持っていた。本書を読んで、なぜか「あっ、この本で一挙にこれまでの苦労が報われるな」という印象を持った。なぜだろう。これまで書いた数冊の本の面白さがこの1冊に凝縮されている、と感じたからだろうか。とにかく本書は面白かった。主人公が異なる短編が最後に主人公たちがつながって、大きな流れの大河小説になる、というタイプの連作短編集が大好きなので、まずは本書の構成にはまった。幾人もの人生を「チェーホフ」のエピソードを軸に縦横に織り成す、という構成もかっこいい。オビには「知らず知らず、つながって、生きていた」というコピーがあるが、ところどころにモノローグのように意味不明の短い文章が挟まれているのも、全体を引きしめ、だらけそうになる読者の背筋を伸ばす役割を果たしている。こうした作品にいまの文壇が賞を与える環境があるのかどうか、あまり興味がないので知らないが、ま、賞なんかとらなくても本が売れてくれればいいなあ。こういう本が売れてくれれば出版界も、まだ少し未来がある。

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