Vol.406 08年6月28日 週刊あんばい一本勝負 No.402


科学・自由・神様

 世界には10キロ先の新聞の活字が読める高性能の望遠鏡があるそうだ。これで日々宇宙を観察しているらしい。科学のめざましい日進月歩には驚くばかりだが、個人的に最も注目している脱ガソリン自動車(電気・水素・電池)の登場は、なぜかイラつくほどのろい。このところのガソリン高騰で電気自動車が来年あたりから一挙に普及しそうな感じだ。しかし、自動車業界の裏でなにが起きているのか、私などには知りようもないのだが、あなた方(自動車産業)の思惑だけで「出し惜しみ」はしないで、というのが正直な気分だ。オイル産出国であるというだけで世界を牛耳っていると錯覚している中近東の王様たちに一泡吹かせたい、って思ったことありませんか。
 最近の小さなニュースでは、フランスのサルコジ大統領夫人の記事に椅子からずり落ちそうなくらい驚いた。いや驚いたというのは正確ではない。ショックで、かつ羨望を覚えた。大統領夫人カーラ・ブルーニはイタリア出身の歌手だが、いまだフランス国籍を取得していない。これだけでもぶっ飛ぶが、自分の政治的傾向を「左派寄りで、移民に厳しいサルコジ政権の政策に疑問がある」というのだ。「でも次期大統領選には夫に投票する」と新聞のインタビューに答えているのだが、この自由度、さすが市民革命の国、彼女やヨーロッパ世界がいっぺんで好きになってしまった。こんな立場の人が、こんな発言を自由にできる国って、ホントうらやましい。
 それなりに仕事が忙しく、やることは山ほどある。こんな時代、仕事に集中していて時間がドンドン経ってしまう、という環境はゼイタクだと思うのだが、こんなときに限って、老いた親の問題や、親族のトラブル、友人たちの不幸も、その裏で頻出する。神様はうまいことバランスを取っているなァ、と感心するが、ま、そういう年齢になったということだろう。
 週末の山行は地震の影響で焼石岳が中止。身体をもてあまし秋田市内にある太平山へ。一人の太平山は初めてだが、2時間半ほどで頂上へ。そこまでは良かったのだが下山で疲れが出て、2時間もかけてヘロヘロになりながら下りてきた。思った以上に暑かったこと(29度)、前々日に深夜まで深酒したこと、一人なのでペース配分(休息)がわからなかったこと……などが要因のようだ。
 来週もう一度、挑戦してみるつもり。今週は岩手山(8合目小屋泊)です。
(あ)

No.402

八日目の蝉(中央公論社)
角田光代

 面白いという噂は聞いていたのだが、この小説の章立てには驚いた。0章からはじまって1章と2章、……なんと3章で構成されているのだ。0章はエピローグなので実質的には2章立て。そして1章と2章の主人公が違う。こんな章立ても、さらに章ごとに主人公が変わる小説というのも、面白い。この章立てが実は重要な意味を持っている。1章は幼児誘拐犯の物語である。新興宗教に「入り込む」までの心理描写にうなってしまう。観念的な表現はどこにも見当たらない。2章はその誘拐された幼児が成人となり、主人公になって語りはじめる。まるでミステリーを読んでいるようなスリルがある。まったく先が読めない面白さだ。その構成の見事さもさることながら、新興宗教がこれほど抑制の効いた筆致で、しかも真正面から(説教臭くなく、批判的な上目線でもなく)描写されているのにもうなってしまった。小説家の想像力ってすごいなあ、と驚嘆。これだけの特殊な世界を描くのだから、当然モデルとなった過去の事件や、関係者の取材があったのだろうが、注意深く読んでも該当するような事件を特定できない。なにからなにまで作家の想像力で作られた物語ではないことは確かなのだが、その境目がわからない。見事な小説である。

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