Vol.409 08年7月19日 週刊あんばい一本勝負 No.405


バクとした不安・新聞広告・山歩き小説

 なんとなく、人並みに、「将来のバクとした不安」を抱えて、先週はずっと落ち込んでいた。柄にもなく……。
 突然、ネガティブな考えにとらわれてしまった原因は、ここ10日間で秋田県内の書店廃業が3軒も連続したことに、ある。書店がつぶれること自体はニュースにすらならないのだが、こうも矢継ぎ早に身辺から書店が消えていくと、やはりいろんなことを考えてしまう。書店が消えても出版社は存続可能なのだろうか。
 そのことと連動しているのだが、秋田や青森、山形や北海道の地元紙の1面に大きな広告を打つ準備をしている。しかしこの新聞広告も10年前に比べれば、もうほとんどといっていいほど広告効果は、ない。以前であれば1面全3段の新聞特等席スペースは書籍広告だけの定位置で、それなりに値段は高くても絶大な効果が期待できた。今は秋田の地元紙ですら掲載日に2,3の電話と翌日ハガキで2,3人から直接注文が入る程度である。もちろん書籍内容の責任もあるのだが、新聞の権威はほとんど失墜(というか低下)してると言っても過言ではないだろう。せめて広告代を半額にすべき時期にきているのでは。しばらく新聞広告出稿はペンディングしようか、と思っている。このへんも落ち込む原因になっているなァ。
 救いは飛び切り感動的な本を読んだこと、かな。南木佳士『草すべり』(文藝春秋)は、山歩き小説とでもいうべきもので4本の短編からなっている。表題作「草すべり」は、高校の同級生だった女性から手紙が届き、40年ぶりに再会、浅間山に登る、というだけの話だが、山を歩きながら、少しずつ互いの人生の断片がいぶりだされ浮上してくる仕掛けが凝らされている。人生の復路でしかわからない、過ぎ行く時をいとおしく、哀切をもって切り取った傑作だと思う。「旧盆」は、北欧製のバーべキューセットを買って、今は誰も住んでいない浅間山の見える実家の庭で、肉を焼き、ビールを飲む、それだけの話だ。「バカ尾根」は、山であった不思議なオバサンと、病院の上司だった「上医」の思い出を交錯させながら、山ではじめて飲んだ燗酒の酔いのなかで語られる。「穂高山」は、涸沢カールで会ったガンに侵された高校教師との会話がメーンだ。表題作がやはり一頭地を抜いている印象で、久しぶりに何度も読み返したくなる小説を読んだ満足感に浸っている。
(あ)

No.405

限界自治夕張検証(梧桐書院)
読売新聞北海道支社夕張支局編著

 ふだんから政治や経済といった大きな問題には距離を置くようにしているのだが、財政再建団体になった夕張に関してだけは、強い関心を持っている。自分たちもいずれ……という未来的な危機感からではなくい。秋田県は昭和31年にすでに再建団体の「経験」がある、という歴史的事実からだ。もう50年も前のことだが、秋田県は保守系政治家の力や八郎潟干拓、秋田国体誘致などの大イベントで、国からの借金を2年前倒しの8年間で完済している。そんなこともあり「先輩」として(笑)、夕張に関心があるわけだが、今ひとつ、夕張に関してジャーナリストのちゃんとした「検証ルポ」が出ていないなあ、という不満があった。
 本書は、その意味では初めて出た臨場感あふれる現場記者のレポートである。サブタイトルに「女性記者が追った600日」とあるように、記事のほとんどは20代の酒井麻里子さんという記者の手になるもの。こうした事件報道の得意な朝日が出遅れているのは、どうして?、と疑問だったのだが、本書にはその答えのようなものが書かれている。要するに夕張をここまでひどい借金王国にしたのは「市労組」であり、その労組から2代にわたって市長が出してしまった労組天国が、自治崩壊の真犯人だ、というのが読売記者の主張なのである。なるほど、労組の肩をもちたい朝日では夕張問題は書きにくいか。そんな裏目読みもできる本である。

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