Vol.412 08年8月9日 週刊あんばい一本勝負 No.408


DM・秋の超目玉・「訳万葉」

 来週には恒例の年4回「秋の愛読者DM」発送作業が始まります。
 この準備に半月ばかり忙殺されました。いつものこととはいえ毎回、新刊点数や売りたい本の数が微妙に違います。今回はかなりリキが入っていて、かつ新刊点数も多く、チラシや通信の製作に長い時間がかかってしまいました。
 このDMのチラシや通信の印刷代、郵送費は1回につき100万円近い費用がかかった時もありましたが、今は削れるところは極力削って、その6割位にまで落ちました。わが舎にとってはほぼ1冊の本を出すのと同じくらいの時間と費用をかけた「販促イベント」です。
 秋号の通信では、もうHPでは先行して実施しましたた「絶版本放出コーナー」を特集しています。DM通信購読者にしか買えない本なども掲載しています。
 その秋号で実は「秋の超目玉新刊2冊」の刊行予告をしています。
 どちらも発売は10月を予定しているので、時期的には冬号(11月下旬を予定)に載せるべきものなのですが、ちょうどDM発送の真ん中の刊行になるため「刊行予告」という形で掲載しました。
 1冊は、椎名誠さんが編集長をつとめる「本の雑誌」社の営業マン・杉江由次さんの「『本の雑誌』炎の営業日誌」(仮題)です。ウエッブ版「本の雑誌」のブログを書籍化したもので、もともと超人気ブログとして出版界の話題をさらっていたものです。さまざまな縁があり、うちで本が出ることになりました。
 もう1冊は、塩野米松さんの長編小説「ふたつの川」(仮題)。昭和初期の東北の小さな村を舞台にした物語です。山の湖からクニマスが消えていく過程が、炭焼きや漁師、医師たちの交錯と、不穏な時代背景を舞台に克明に綴られていきます。原稿用紙1000枚を超す力作です。どちらもすごい本ですよ。
 まあ、それにしても本は売れません。愚痴は言うまいと決めているのですが、活字ばなれを憂うというより、活字文化に対して「畏敬」の念が薄れている時代に、なんとも忸怩たるものを感じてしまいます。
 そんななか先週、1年半も前に刊行した小舎の復刻本『訳万葉』(村木清一郎著)が全国の地方紙の記事になりました。共同通信の配信で、書評ではなくニュース扱いのカラー写真つき。そのせいかものすごい反響がありました。沖縄から青森まで30都道府県ぐらいの地方紙に掲載されたようで、この記事で1万2600円の本が「うん十冊」動きました。読者はいるんですね。私たちがうまくそうした人たちと出会えないだけで。それにしても新聞の力、まだまだ、あなどれません。
(あ)

No.408

草すべり(文藝春秋)
南木佳士

 週末は夢中になって県内近場の山を歩いているのだが、だからといって「山岳小説」のようなものには、まったく食指が動かない。山登りというよりも散歩の延長のような「山歩き」のレベルだからなのかもしれない。
 本書は「山歩き小説」である。4本の短編からなっている。表題作「草すべり」は、高校の同級生だった女性から手紙が届き40年ぶりに再会、浅間山に登る、というだけの話。山を歩きながら、少しずつ互いの人生の断片がいぶりだされる。人生の復路でしかわからない、過ぎ行く時をいとおしく、哀切をもって切り取った傑作だ。「旧盆」は、北欧製のバーべキューセットを買って、今は誰も住んでいない浅間山の見える実家の庭で肉を焼き、ビールを飲む、それだけの話。「バカ尾根」は、山であった不思議なオバサンと、病院の上司だった「上医」の思い出を交錯させながら、山ではじめて飲んだ燗酒の酔いのなかで語られる。「穂高山」は、涸沢カールで会ったガンに侵された高校教師との会話が、メーンになって著者の遠い日の回想が呼び起こされていく。表題作がやはり一頭地を抜いている。久しぶりに何度も読み返したくなる小説を読んだ満足感に浸った。

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