Vol.42 6月16日号 週刊あんばい一本勝負 No.39


ソウルの豚バラ焼肉

 駆け足で仙台空港からソウルに行って来た。2泊3日の強行スケジュールで国際ブックフェアとソウルの書店事情をのぞいてきた。楽しみだったのは通訳の韓国出版研究所の白(ペク)さんとの再会で、彼には2年前、舎員旅行で研修の通訳をしてもらった。まだ若いのだが正義感の強い好青年で、板門店での兵役体験を語るときの哀しそうな顔が印象に残っている。舎員旅行の最後に「ぼくの行きつけの店にみなさんを招待したい」といって連れてってくれたしょんべん横町のようなところにある「豚バラ焼肉」の店が信じられないほどうまかった。普通の安サラリーマンたちが大騒ぎしている普通の居酒屋である。今回も夜は白さんにその店に連れていってもらうのを楽しみにしていたのだが、ソウルで合流した「棚の会」の連中16人も一緒に食べたい、というので一挙に大宴会になってしまった。カリカリにジンギスカン鍋で焼いた豚バラをごま油(レバ刺のたれと同じ)や朝鮮味噌、野菜でがんがん食うだけなのだが、もうこれがたまらないほどうまい。焼酎やどぶろく(マッカリ)もすいすいすすみ、最後にコンニャクのような色をした冷麺がまたうまい。一緒にいった連中も大喜びで連れていった甲斐があるというものである。秋田から直行便が飛ぶようになれば、この豚バラのためにだけソウルにくるおそれは、小生の場合、十分ある。
(あ)

豚バラ宴会

ブックフェア隣の秋田県観光ブースで白さんと

事務所の昼食風景

 正直なことをいうと事務所で飲食するのは好きではない。できるだけ飲食しないようにしているのだが働く若い女性たちの要望もあり、お昼は二階でご飯を炊いて食べるのがこのところ習慣になってしまった。とにかくそばにちゃんとした食堂がないし、お弁当は飽きるし、これが一番安上がりでヘルシーで手っ取り早いという結論に達したのである。近くのスーパーからおかずをバイキング買いし、ご飯とみそ汁を作って食べるだけ、一人あたり二五〇円、小生も何度かご相伴に預かったが、このシンプルさがなかなかいい。普通は自宅で簡単な麺類を作って食べているのだが、わいわいがやがやおしゃべりしながら食べる昼飯もなかなかのもので、営業アルバイトの鈴木君にも参加するよう呼びかけているところである。
(あ)

これが昼食風景

高平哲朗さんの出版パーティ

 六本木のピットインで高平哲朗さんの『あなたの想い出』(晶文社)の出版パーティがあった。この本は面白かった。高平さんの周辺にいる亡くなった有名人や友人たちへのオマージュなのだが、ディテールや渋いエピソードがさえわたっていて泣かせる。ここで取り上げられた故人と縁の人たちが、それぞれに似合ったジャズのスタンダードナンバーの生演奏の合間にスピーチするという、高平さんらしいパーティである。たとえば林家三平は海老名未亡人や息子だし、色川武大は一関ベーシーの菅原さん、小坂一也はミッキーカーチス、三木のり平は久世光彦で、由利徹は山本晋也、そのほか大林監督や町田康、矢崎泰久といった芸達者のスピーチが続き、司会は和田誠さん、進行が嵐山光三郎さん。松田優作はなぜか南伸坊さんで顔面相なる芸を披露した。しかし圧巻は美空ひばりのスピーチと歌を披露した雪村いずみさんだった。黒のスパンコールのワンピースで、とても七〇歳近い女性とは思えないプロポーションと美声だった。
(あ)

今時珍しい手書きのパーティ案内状。よくみると和田誠さんの字ではないか

散歩の必需品

 夜の散歩は目下のところ小生の最大の楽しみである。ただ人気のない夜道をひたすら歩くだけなのだが次の日の仕事の段取りや、中長期の企画を熟考するには最高の時空間である。最近はやみくもに歩くだけでなく歩数計を腰にぶら下げ目標値を決めて歩くようになった。これで初めてわかったのだがわが散歩時間は約一時間、距離は五キロ前後、消費カロリーは五〇〇キロカロリーほどである。こんなことがわかったところで何の役にもたちはしないが毎日五キロ歩いているという自信は精神衛生上悪いことではない。歩数計の他に散歩にはかならずソニーのICレコーダーと小銭入れを忘れない。歩いているといろんなことが頭に浮かぶのでそれを吹き込むのと、途中にある本屋で寄り道したときのためのお金である。これらを身につけて夜に歩くようになってもう三,四年になる。ほとんど日常生活になってしまったが、これがしんどくなったときが問題だろう。がんばらず、でたらめに、手抜きで長続きを目指すつもりである。
(あ)

これが散歩の携帯品

No.39

村松友視(小学館)
鰻の瞬き

  散歩本である。自分が散歩好きなので散歩の本はよく読んでいるのだが松永伍一という作家の散歩本があまりに面白くなくて、がっくり来たこともある。まあ散歩の本だからしょうがないか、とあきらめが早いのも「たかが散歩」だからなのだろう。この人の書くものも当たり外れが激しいような気がするが、例によって小説はほとんど読まないからえらそうなことはいえない。自分のことになるがほんとうに散歩をしているといろんな考えにとりつかれる。そのため小型のテープレコーダーを持って毎日歩いているのだが、散歩には脳の働きを活性化させる麻薬が含まれている。だからいつか誰かが究極の私小説のような散歩本の傑作を出すのではないかとおもっているのだが、この本もいいところまでいってるような気がする。表題は近所の焼鳥屋で聞いた口論から思い付けただけで、ほとんど散歩との関連がない。ジャズシンガー綾戸智絵のことを書いた項はダンディな著者がめずらしく熱くなっている。

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