Vol.424 08年11月1日 週刊あんばい一本勝負 No.420


本を出しながら考えること

いやはやもう11月になってしまった。よくよく考えれば8月9月10月とずっとあわただしい日々だった。それも11月でほぼ一段落する予定。中旬に恒例の「冬のDM」を発送すれば今年は店じまい、といいたいところだが、この経済の冷え込みで、本はさっぱり売れない。こんどは本を売る仕事のほうに全精力を注がなければならない。本造りから販促へ、である。造るだけなら楽しくて、こんないい商売はないんだけどね。

8月からここまで、毎月3,4冊の本を出してきた。けっこう疲れは溜まっているのだが、週末の山歩きでリフレッシュして、どうにか持ちこたえてきた。この息抜きがなかったら胃か肝臓をやられていたかも。しんどいことがあっても酒に逃げたり、夜の巷を徘徊するなんてことはなくなったが、山歩きがなかったら、ストレスは発散の場所を失って確実に身体の内部を蝕んでいたはず。

30年以上、同じように目の前の仕事を淡々とこなす日々を送ってきた。サボらず、あきらめず、地道に、丁寧に、才能のないぶん時間をかけ、仕事をしてきたつもりだが、そんな仕事への倫理感など、たいした価値を置くべきものではない、と「今」はせせら笑う。デジタルの波が押し寄せ、金融経済が大手を振るうようになって、活字文化の価値は相対的に下がり続けている。本を読むことになんの価値を置かない世界が現出したといっていいだろう。秋田からはほとんど街の本屋が消えた。こんななかで出版は可能なのか、本を出しながら考えていくしかない。
(あ)

No.420

日系人の歴史を知ろう(岩波ジュニア新書)
高橋幸春

 今年はブラジル移民100周年記念。小舎でも去年からエッセイ集「遠くて近い国」、アマゾン移民を描いた小説「超積乱雲」、「ブラジル移民の赤ひげ先生」といわれた人物の評伝「高岡専太郎」と、3冊もの本を出版してしまった。時流に便乗したわけではない。何度か現地取材しているし、移民関連の本にも目を通す機会も多いので、移民に関しては人並み以上の知識を持っているつもりだ。しかし、本書を読んで、知らないことがたくさんあることに驚いた。著者の高橋さんと面識はあるのだが、これはいい本を書いてくれました、感謝。ご自分の体験から(移民して邦字新聞の記者をし、お嫁さんも日系移民3世からもらっている)、移民といわれる人たちの心情を忖度しながら書いているから、抜群の説得力がある。逆移民といわれるブラジルからの「出稼ぎ日系人問題」でも、その子どもたちの多くが日本で差別を受けていることについて、自分の子どもの例をひいて記述している。日本で暮らす日系ブラジル人は30万人をこえている。異なる文化を持つ人々とどうやって生きていくのか、そのための道を探るための絶好のテキストでもある。岩波ジュニア新書は難しい表現をさけ、噛み砕いて難しいことをわかりやすく書いているので読みやすい。

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