Vol.426 08年11月15日 週刊あんばい一本勝負 No.422


散歩・ポスター・映画館

仕事が一段落したこともあり、積極的に外に出ています。といってもなにか目的があってのことではなくブラブラ街を散策するだけ。天気もよかったしね。たいした仕事もないのに1日中机の前(というかパソコンの前)に垂れ込めていると暗くなり、ひとりで勝手に落ち込んでしまいます。これは身体によくない。それでなくとも小心でクヨクヨ考えてしまう性質なので、ま、散歩は予防策のようなもの。ちょうど見ごろの市街地の紅葉をめでながら2,3時間街をぶらついて、疲れて帰って来るだけですが、この疲れがけっこう気持ちいい。

その街で見かける選挙用ポスターに笑いました。多額の借金で自己破産したのに(いや「だからこそ」なのか)、ヨレヨレで議員にしがみついているF衆院議員のコピーは「まったなし! 秋田」って、「まったなし」はあんただろう。こんなツッコミを予想して考えたコピーならユーモアのセンスに脱帽だが、こんなのに限って「まじめ」に考えたものだから手に負えない。その政党の親分のポスターコピーも笑える、というか食えない。「麻生は、やりぬきます!」。これって安倍、福田の「放り出し首相たち」を意識して、「私は、放り出しません」って言いたいんだろうけど、もともと前二人の首相の放り出しが異常で、普通、国のトップって「やりぬくし、放り出さない」のは当たり前というか前提。もっともハードルの低いところに目標をおいた低次元コピーだろう、これは。漫画好きは一向に構わないが、「漫画しか読んだことがない総理大臣」というのは、かなり怖い。あの薄笑いを見ていると、背後からなんとなくハンザツにミゾウユウのフシュウが漂っているような……。
 
外に出るようになって、映画館にも2度入った。話題になっている『おくりびと』と、アラスカの山中で暮らした若者の物語『イントゥ・ザ・ワイルド』。どちらもけっこう楽しめたが、映画館で映画を観ることには実は若干の躊躇がある。きまってそばにオバサンの二人連れや若いカップルがいて、こいつらが映画の最中におしゃべりを続けるのだ。それが気になって映画に集中できなかったことが再三あった。これがトラウマになって、なかなか映画館に行く気が起きなかったのだが、今回おしゃべりはなかったものの、映画館の隣の部屋で大工仕事、そのドリル音がすごかった。楽しい時間を過ごそうと思って金を払っているのに、見知らぬ人間に声荒らげ、けっか、不快な時間を過ごすことになるのでは割に合わない。
(あ)

No.422

静かなる凱旋(講談社)
阿部牧郎

  秋田県人がもっている「鹿角」という地域への知識やイメージは断片的で、乏しい。私自身がそうなので断言するのだが、同じ県民というより、どこか「よそのお客」といった距離感で接する人が少なくないのだ。140年前の戊辰戦争で官軍になった秋田藩は、そのご褒美に新政府軍から賊軍である南部領の鹿角地方をもらった。戊辰戦争当時、秋田藩内に攻め入った南部領の藩士たちの先鋭部隊というのが、この鹿角の武士たちだった。彼らは大館城下に火を放ち攻め込んだわけだが、それがのちのちまで秋田県人をして「南部の火付け」と侮蔑的な言葉で見下ろされる背景となった歴史的背景があるのだ。
 本書は鹿角出身の「官能派作家」である阿部牧郎が、珍しく真正面から(というのは失礼だが)取り組んだ郷土の歴史小説である。戊辰戦争から日露戦争講和までの38年間を、鹿角の鉱山主である青山吉之助の半生を軸にしながら丁寧に描いている。前半は戊辰戦争の南部領側からの記述が主で、後半は秋田県に属するようになった鹿角の遺族会が日露戦争の講和をめぐって東京へ請願にでかけて繰り広げるドラマが中心になっている。
 ドラマがユーモラスに動き出すのは後半である。その伏線として総理大臣・桂太郎の出会いが、前半部である戊辰戦争のエピソードのなかに準備されている。鹿角という地域風土がどのように生まれ、秋田県の風土の中に溶け込んでいったかが、よくわかる本だ。

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