Vol.445 09年3月28日 週刊あんばい一本勝負 No.440


雨の日は本を読もう

もう週末か。あいかわらず光陰矢のごとし。これを書いている3月27日朝、仕事場の窓から、屋根を白く塗り替えていく吹雪が舞い踊る寒々しい景色が見えている。
今週は静かだった。来客も電話も少なく、天気は荒れ狂い、大きな事件もなく、静謐な時間(とき)が流れ去った印象が強い。

週末の山歩きもしばらくない。先週末、何となく身体にコケが生えてきそうな気分だったので、無目的に米沢市まで小旅行。仙台で新幹線を乗り換え、福島まで。そこからさらに山形新幹線に乗り換えてようやく米沢へ。秋田からみると、東北ではもっとも行きにくい街といっていい。そのため、行きたいと思いつついつも機会を逸してしまう街なのだが、今回はひたすらそこに行くことだけを目標にした。街をブラつき、友人と会って、一泊。これでしばらく行かなくても渇望を感じることもないだろう。

雨は降るし、気分もいまひとつ乗らない。散歩もさぼりがちで映画にも若干食傷ぎみ。こんなときは本を読むに限る。買い求めて積んでた本を片っ端から読破した。『リストラされた100人 貧困の証言』(宝島新書)、『資本主義はなぜ自壊したのか』(集英社)、『トヨタが消える日』(成甲書房)といった社会問題系(というほどんものじゃないが)の本は、いまいちテレビの不況報道が信じられないため。『イメージを読む』(ちくま学芸文庫)は、大学での美術史講義をまとめたものだがうわさ通り刺激的な論考で驚く。これが本のだいご味だ。『ライク・ア・ローリングストーン』(岩波書店)は題名から想像つかないが全共闘世代の「俳句少年漂流記」。俳句に疎い自分でも楽しく読むことができ、かつ見事な青春物語にもなっている。『トイレのポツポツ』(集英社)は原宏一のサラリーマン連作小説だが、こちらに月給生活の実感がないせいか、なかなか感情移入できない。『シズコさん』(新潮社)は佐野洋子の自伝的母娘愛憎物語。それぞれみんな面白かった。雨の日は、やっぱり本ですね。
(あ)

No.440

この世いちばん大事な「カネ」の話(理想社)
西原理恵子

 理想社の「よりみちパン!セ」はヒット企画だ。ラインナップをみても読みたくなる本がいっぱいある。でも正直言うと、どれもちょっぴり物足らない。企画そのものが若年齢層を狙ったもので、われわれ大人用にできていない、といわれればそれまでだが、良質の企画というのは老若男女を等しく感動させる。しかし、本書はこのシリーズ企画にぴったしの内容で成功した例だろう。お金という扱いの難しいテーマを、その筋の経済的な専門家に解説させるのではなく、そうした常套手段の裏をかいたのが、成功の秘訣だろう。本シリーズは「学校でも家でも学べない、キミの知りたい、リアルでたいせつな知恵」を提供するもの。これまでも森達也『世界を信じるためのメソッド』や白川静『神さまがくれた漢字たち』など、なかなか興味深く読ませたし、私たちの年齢のものには「子どもにも読ませたい」と思わせるのがミソ。本書は発売1ヶ月ですでに5刷を重ねている。たぶんこのシリーズの一大ヒットになるのは間違いない。編集者の企画力(テーマは凡庸だが、このテーマを西原理恵子という異彩の漫画家に書かせたこと)の勝利といっていいだろう。いや、もしかすると人選のほうが先にあり、あとから「何を書こうか」となったのかもしれないが、どちらでも構わない。泣きどころも、考えどころも、笑いどころも用意周到に準備された、いい本に仕上がっている。

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