Vol.446 09年4月4日 週刊あんばい一本勝負 No.441


屋久島にて

 一週間、休暇を取って屋久島に行ってきた。
 念願の縄文杉を見たかったこともあるが、昔、親しくさせていただいた山尾三省さんの墓参りもしたかった。
 屋久島は滞在中ずっと雨。「月に35日雨が降る」といった林芙美子の言葉に納得だが、それにしても寒いのには参った。吹雪の秋田を出発、着いた鹿児島の南の島で寒くて震えていた。日本は広い。
 縄文杉には感動した。朝の六時に出発、下山してきたのが午後五時だった。11時間歩きっぱなし、雨はバシャバシャ、トロッコ道もほとんど川になっていた。もうすっかり雨への免疫ができた感じだ。
 翌日はレンタカーを借りて島内をフラフラ一周。一湊港の近くの山尾さんの未亡人を訪ね、お線香を上げさせてもらう。三省さんは東京の人なので、御仏前に「とらや」の羊羹を買っていったのだが、案の定、「三省の大好物でした」とのこと。奥さんは山形南陽市の生まれなので、いろんな話をする。
 屋久島を発つ日、皮肉にも雨はやんだ。
 鹿児島南港からタクシーで鹿児島駅へ。飛行機の時間まで四時間ほどあるので駅に出て、そこからブラブラ街中を歩こうと思っていたのだが、乗ったタクシーの運転手に、調子に乗って「東北の庄内地方に西郷隆盛の神社がある、何て知ってる?」とエラソーにカマをかけると、なんとその運転手、「鹿児島の人は知らない人もいるけど、市内の公園に西郷さんと庄内藩家老の会談記念像が建ってますよ、行きますか?」とかえされた。郷土史というか明治維新史に詳しいドライバーで、彼に市内観光を頼むことにした。三時間で飛行場まで送り届けてもらい七〇〇〇円だった。楽しい三時間で、あっという間に過ぎた。屋久島や西南戦争について、ガイドブックには書かれていないいろんな話を聞くことができた。

 それにしても、屋久島の民宿でテレビをつけると、さかんにPC3を秋田に配備した、というニュースをやっていた。屋久島まで来て秋田のニュースかよ、という感じ。帰りの鹿児島空港でも、来る時に東北地区のニュースを読んでいた若いNHKのアナウンサーが、なんと鹿児島ローカルの六時台のニュースを読んでいた。そうかサラリーマンは異動の季節か。空港は黒いスーツを着たフレッシュマンたちであふれていた。
(あ)

No.441

資本主義はあんぜ自壊したのか
(集英社インターナショナル)
中谷巌

 こういうタイムリーというか、ベストセラーは敬遠していたのだが、やはり「衝撃の懺悔の書」という版元の惹句に引っかかってしまった。小泉改革の中心的な旗振り役が、ここにきてなんと「アメリカかぶれの自分が日本の道を誤らせてしまった」と懺悔している本である。まいわば暴露本や告白本の類として読まれ、売れてしまうんも無理がない。それにしても突然アメリカかぶれが「日本の伝統文化」だ、西行や芭蕉が素晴らしい、と言い出したのだから戸惑ってしまう。彼や竹中平蔵のグローバル資本主義礼賛のおかげで、自殺まで追い込まれた人や、問題の格差社会の原型を作り上げたのだから、こんな本を書いたぐらいで懺悔がすむ、という簡単なものではないだろう。それでも本としては抜群に面白い。日本の進路のかじ取りの失敗を素直に認め、反省する。その基本的スタンスが、日本の歴史や文化、自然や伝統を見直そう、というもの。オイオイと半畳を入れたくなる論理展開だが(なにせ理想の国家をブータンやキューバの〈幸福感〉に求めたりする極端さ)、全体的には至極もっともなことを述べているのがうけているのかもしれない。それにしても最近、衝撃的な本といえば「集英社インターナショナル」が版元なのはどうして。

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