Vol.449 09年4月25日 週刊あんばい一本勝負 No.444


「スプーン」・加藤紘一・1週間

 山形・酒田市で20年近く無料のコミュニティ雑誌が出ている。間違いなくこの手の雑誌では東北一で、全国レベルでみてもトップクラスに入る企画編集力のある雑誌だ。名前は「スプーン」、酒田市民にとって愛着ある月刊誌である。この雑誌が今年4月で休刊(廃刊)になった。スポンサーが地元の大きな印刷所で、毎月出る赤字をここが補填していたのだが、本業のほうが不景気で大変になり、メセナ的雑誌への援助まで手が回らなくなったのだろう、たぶん。
 まあ出続けていたこと事態、奇跡のようなものだから、今は素直にご苦労さんと言いたい。ちょっとだけ、非難めいたことを言わせてもらえば、これだけ長い時間があったのだから、印刷所の援助にたよる経営から、もっと早く自立する努力をすべきだった。そういう努力をしてみると、いかに商業雑誌を出すことが、そしてそれで食べていくことが至難の業か、骨身にしみてわかったはずだ。良い雑誌だっただけに、残念だ。

 この「スプーン」廃刊のニュースを、友人の山形の新聞記者から聞いた時、ちょうど庄内や新庄を選挙区にする加藤紘一の『劇場政治の誤算』(角川ワンテーマ21)という新書を読み終えたばかりだった。秋田は知事選や市長選、県議補選が終わったばかりで、なんとも盛り上がりに欠けた選挙だったが、加藤の本を読み、こんな政治家が身近にいたら、自分も選挙応援に奔走してただろうな、と思わせる見識を持った本だった。
 選挙や政治に関心を持たなくなったのは、政治家に尊敬できる人がいなかったからだ。と同時に政治や政治家に依存するような生き方をしたくない、という強い信念もあった。でも政治は大切だ。国政はもちろんだが、地域をどうしたいのか、明快なビジョンや哲学を持った政治家がいれば、一心不乱に応援するのだが、わが郷土には残念ながら見当たらない。加藤の本は、国政に携わる政治家が今言っておかなければならない問題点を語ったものだが、本書のかなりのページを割いて、地元山形についても熱く語っている。

 今週はどこにも出かけず、ずっと机の前に垂れこめていた。こちらが外に出なくても、来客はけっこう多く、ほとんど退屈はしなかった。だって、この1週間に限っても、山形新聞とさきがけ新報に全3段広告をたてつづけに打ち、新刊も「久保田城下町の歴史」と「古田久子と行く」の2冊が出た。長い付き合いになる山形の印刷所のお偉いさんがあいさつに見えて、それと同じ時間に、何の打ち合わせもなく青森のライバル印刷所の社長も訪ねてくるハプニングもありました。いろんなことがあります、人生は。
(あ)

No.444

アフリカにょろり旅
(講談社文庫)
青山潤

 友人から勧められて買った本だが、カバーを見た途端、メチャ面白そうな予感があった。そこで、すぐには読まず、屋久島旅行の友として持っていくことにした。民宿ではたぶん無聊をかこつことになるだろう。一人ぼっちなのでできるだけ気分がハイになるような本を持って行きたかった。その作戦は成功した。連日の雨で宿屋に閉じこめられたが、この本のおかげで明るい気分で時間をつぶすことができた。世界で初めてニホンウナギの産卵場所を特定した東大海洋研究所の若い2人の研究者のドタバタ冒険紀行である。唯一まだ採取されていない「ラビアータ」という幻のウナギを求めるアフリカ珍道中なのだが、この舞台になったマラウイという国が興味深い。一度でいいからこんな国に行ってみたい、なんて考えながら読了した。そしてテレビをつけたら、なんと歌手のマドンナが、アフリカのマラウイ国に出没したニュースが衛星放送で流れている。あちゃ、いま読み終わったばかりの本の舞台が、さっそく現実ニュースの中に登場してしまったのである。マドンナはマラウイから養子をもらい、育てているのだが、今回はその兄弟になる別の養子をもらいに来た、という。一部にはお金で子供を売買することに非難が起きている……といった趣旨のニュースだった。マドンナよりもその背景に映っているマラウイという国の風景にばかり目が釘付けになってしまった。こんなことってあるんだね。本を読むと知らないことを知り好奇心がどんどん広がる。

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