Vol.469 09年9月12日 週刊あんばい一本勝負 No.464


いつのまにか「読書の秋」

なんだか、ぼんやりしているうちに暑い夏がすっかりどこかに行ってしまった。朝夕がめっきり冷え込んで、そうか8月も終わっちゃったんだ、と気がつく。「秋のDM発送」も終わり仕事はひと段落、そのあと選挙があったせいか今頃になってようやく遅いDMの注文が入りはじめています。
選挙というのは本当に国民的行事だ、ということを肌で感じたのは初めての経験でした。政権交代がどうのこうのということではなく、まず郵便物が予定通りに届かない。さらに選挙期間中、郵便物そのものが量ががくんと減った。事務所に訪ねて来る人はほとんどいない。電話のベルもメールもふだんより極端に少なくなった。メディア関係の友人からはプツリと連絡が途絶え、外に出ると選挙カーがやかましい。散歩していても見たくもない候補者のポスターだらけでうんざりする。選挙なんてひとつもいいことがないのだが、今回の政権交代は予測できない「大きな意味」をもつ時代の転換点になるのはまちがいない。
外は何かとうるさい割に、わが周辺はきわめて静謐です。事務所から1歩も出ず、自分の世界のなかをプカプカ浮遊している感じです。選挙も投票者を決めれば終わったも同然だし、「山の学校」も8月いっぱいと9月上旬までは全く予定なし。だから週末になると、ひとりで秋田駒、栗駒、森吉、乳頭縦走と有名どころを狙って(淋しい山は怖いので)山歩き。ただひたすら暑いなかを、ひとりで花にも目もくれず、ひたすら登るだけ、ま、ある種のトレーニングのようなもの、なんとも味気ない。秋になれば「山の学校」も本格的なスケジュールを組んでくれそうなのだが、山は集団でワイワイ言いながら登るのが楽しい。
9月は「読書の秋」の入り口だ。その季節を狙ったわけではないが、ずっとリキをいれて編集してきた3冊の新刊が出る。鹿児島県屋久島の『森の時間 海の時間――屋久島一日暮らし』。これは尊敬する故・山尾三省さんの詩に奥さんの春美さんが短文を付した夫婦共作の詩文集である。2冊目は弘前劇場主宰の劇作家・長谷川孝治さんのエッセイ集『さまよえる演劇人』。そして、3年前、全国の人々を震撼させた畠山鈴香の殺人事件の克明なレポート『秋田連続児童殺人事件』(北羽新報編集局報道部編)の3冊である。いずれも力作で、ぜひ読んでほしい本ばかり。よろしくお願いします。
(あ)

No.464

女三人のシベリア鉄道
(集英社)
森まゆみ

 森まゆみさんと言う人気作家が、シベリア鉄道に乗ってその旅行紀行を書くだけでも面白い話になるのは間違いない。なのに、ぜいたくにも本書では、林芙美子、宮本百合子、与謝野晶子という近代日本を代表する女流作家たちの「愛と理想を求めて旅した足跡」を辿りながら、シベリア鉄道を森さんが通訳の若い女性と一緒に堪能する。いわば評伝と鉄道の旅が合体したノンフィクションである。ウラジオストクからモスクワを経てパリまでの鉄道旅は魅力的だ。その折々に女流作家たちの文章や足跡を引用しながら、主に社会主義国の昔と今を自分の青春時代の「幻想」と照らしあわせながら、旅を続ける。圧倒的に面白いのは森さんと通訳女性の普通のやりとりであり、日々の食事光景やなんでもない会話だ。三人の高名な作家たちの足跡はいわば調味料で、全共闘世代がもっていた社会主義国に対する「幻想」を、自らの学生時代を振り返りながら、森まゆみが、自分自身の青春時代をふりかえる懐旧の旅でもある。現実の社会主義国をしっかりとした冷めた眼で観察し、その間にわが青春記が交錯する。旅の最後には、森さん自身の息子さんが登場、終わり方もしゃれている。

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