Vol.472 09年10月3日 週刊あんばい一本勝負 No.467


読書の秋は新聞広告から

10月になってしまった。「しまった」というのも残尿感のある言葉だなあ。もっとちゃんとやることがあったのに、できないまま月をまたいでしまった、という不完全燃焼感を言いたいのだが、ま、これはいつものこと、言葉のあや。まちがいないのは、もう2カ月もたつと1年の最後の月になってしまうという事実ですね。こう考えると1年は早くて「しまった」にも少しリアリティがありますね。
9月は、仕事はともかく週末の遊びの日程がびっしりだった。山に行かなければ「大人の休日切符」などで県外に小旅行を繰り返した。机の前に垂れこめているより、外の空気を吸って、うまい酒を飲み、リフレッシュするほうが良いに決まっている。が、この「良さ」がクセモノ。どうしても食べ過ぎ飲み過ぎ、判で押したような日常生活が崩れていく。楽しみの裏には同量の苦しみの予兆が隠れている。
秋は山歩きが最高のシーズンで、できれば週に2回は山の中にいたい。がうまくしたもので本業のほうも実はかきいれ時。「読書の秋」とはよくいったものだ。たぶん〈統計はとったことはないが〉1年で最も本が売れる時期なので、夏場からこの秋に向けてせっせと新刊作りに励む、ということになる。本づくりそのものは9月中にメドがたっているのだが、10月はその新刊を売るための営業、販売促進活動が重要な仕事になります。チビ会社なので、本の編集制作と販売営業は同じ人間が担当するわけで、どっちの仕事が面白い、と訊く方もいらっしゃるが、う〜ん、これは難しい。
そんなわけで、10月中はかなりの数の(チビ会社としては)広告出稿が予定されている。決定しているだけで次のような日程だ。

10月4日 読売新聞読書欄下5段12割
10月15日 東奥日報全3段(青森)
10月20日 秋田魁新報全3段
10月20日前後 朝日新聞1面3段8割

といった具合。各新聞社が公称している広告価格でいうと、これだけで200万は下らない金額になるのだが、そこはムニャムニャ業者間値段というものがある。かろうじてうちのようなチビ会社にも払える仕組みになっている。どれかの新聞をとっていたら、ぜひご覧になってください。
(あ)

No.467

利休にたずねよ
(PHP)
山本兼一

 今年の前半期、第140回直木賞の受賞作である。賞をとった作品をその年のうちに読む、というのは私自身の体験としては極めて珍しい。興味ある本でも文庫本になったあたりで読むのが普通で、話題作には興味がない。それでもこの本を手に取ったのは、いろんな理由がある。第一に流行と関係ない時代小説であること。さらに、この本はすでに月刊誌の「歴史街道」に06年時から連載され話題になっていたものであること。単行本になったのは08年11月で、直木賞をとる前から売れていた本なのである。ということで、読み始めたのだが、まずはその構成に驚いてしまった。主人公である利休が殺される〈切腹する〉ところから時間が逆走しながら物語がはじまるのだ。利休切腹の日(1591年)からはじまり、最後は利休が19歳の1940年で、物語は終わる。逆編年体で物語が進行する、というのは新鮮で面白かった。秀吉におもねらず、死さえいとわなかった強靭な精神は、利休の過去がはらんだ「謎」にあった。若いころのある体験にその「謎」が拠っているために、こうした時間の逆転が必要だったのだろう。版元はPHP研究所。直木賞作品としては珍しい版元だが、これは初出雑誌がPHP研究所の刊行するものだからだ。そのため単行本も同じ版元から出たものだろう。

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