Vol.472 09年10月10日 週刊あんばい一本勝負 No.468


体調不良・自宅温泉・健康診断

ずっと体調が思わしくない。もう2週間になる。いっこうによくなる気配がない。いっときは新型インフルエンザの心配もしたのだが、熱が出るわけでなく、身体もしゃんとしている。なのに咳は出るし、頭痛がおさまらない。何が原因なのか、さっぱりわからない。食欲もあるし、睡眠も十分とれているのに、なんとなく世界がけだるく、うっとうしい。思い当たるのはやはり「過労」だ。ほぼ毎週、この3年間、山に登り、小旅行を繰り返してきた。その目に見えない疲労が、ある種の飽和点を超え、ジリジリと身体にダメージを与えているのではないか。でも、なぜ熱やだるさがないのか、そのあたりはちょっと不可解で、自分にはよくわからない。
こんな最悪の状態のまっただなか、健康診断を受ける羽目になってしまった。案の定、当日に結果が出た体重や血圧の数値はいつもより高い。そうか体重も増えているか。午前中いっぱいかかった検診を終えても気分はちっとも晴れなかった。1週間後、検査結果が病院から送られてきた。予想通り注意項目がびっしり書き込まれていた。が、「再診」のチェックはない。少しほっとする。結果項目に「要再診」と書き込まれるのが健診の一番の鬼門。といって安心してばかりもいられない。この年になると来週死んでも誰も驚かない。この数値を肝に銘じて、来年の健診まで数値の改善に努力してみよう。ま、来年の目標ができたと思えば少しは気も晴れる。

そんなわけで体調が良くないせいもあり、ずっと引きこもっている。唯一の楽しみだった八甲田1泊登山も台風で中止、がっくりきたが、内心、この体調では登っても楽しくなかったかも。楽しみは夜の入浴。毎日のようにツムラからでた「日本の名湯」を自宅浴槽にいれ、自宅温泉を楽しんでいる。初日は北海道の登別に行き、翌日はピンク色の紀州・龍神温泉、その次の日は秋田に戻って乳白色の乳頭温泉に入り、その次は一挙に九州に飛んで……といった具合だ。もともとこんな温泉趣味はないのだが、たまたまこの名湯シリーズの「乳頭温泉」のパッケージ写真をうちが提供した縁で、この名湯シリーズを頂いたのだ。
咳も頭痛もすこしずつおさまりつつある。来週からは、書を捨てて街に出ようと思っている。
(あ)

No.468

ばかもの
(新潮社)
絲山秋子

 「気ままな大学生と、強気な年上の女。かつての無邪気な恋人たちは、気づけばそれぞれに、取り返しのつかない喪失のなかにいた」。 このオビ文がすべてを語っている。うまいコピーだ。実際に読んでみると、オビ文には納まりきれないディテールが満載で、その物語の精緻さに、まずは圧倒される。小説はディテールがすべてだ。何の変哲もない凡庸な主人公が、少しずつ壊れていく。アルコール中毒になっていくのだが、描写も抑制された筆遣いで、嘘っぽくない。新興宗教にはまる同級生が物語の絶妙なスパイスになっているし、ラストの喪失から再生へのドラマは純愛小説の到達点、といっていいかもしれない。行間のいたるところから愛しい愚か者たち(若者)の声が聞こえてくる。どことなく村上春樹の話題の書、『1Q89』に似ているような雰囲気がある。誰もこのことを指摘しないところをみると、こっちの勝手な思い込みかもしれないが。私には『1Q89』より本書のほうがずっと感情移入がしやすく、感動も濃かった。著者は1966年生まれ。いま40代前半か。この人といい『阪急電車』の有川浩といい、物語を生む才能に満ちている。才能の源が、これからもずっと枯れずに、私たちを楽しませてほしい。老若男女が年齢や価値観を超え、楽しめる唯一の娯楽が読書なのだ。

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