Vol.490 10年2月27日 週刊あんばい一本勝負 No.484


本を売るために必要なこと

本の宣伝に、本をつくる以上の労力を注ぐことは、うちではあまりない(よく言えば本の力に宣伝力を任せきっり。悪く言えば、出しっぱなし、である)。が、今月出した『ミラクルガール』はそういった意味でかなり特殊な本だ。刊行前からマスコミ・メディア対策を入念に行い、本が出たらその本を「お届け」し、さらに電話で取材のお願いを重ね、あいまいな対応をするメディアには、失礼を省みず何度も取材確認の電話を入れたりした。こんなことは長い舎歴の中でも、ほとんど例がない。

著者の大塚弓子さんは、31歳の若い独身女性。彼女のがん闘病記なのだが、がん患者であるだけでなく現在、宮城県の石巻赤十字病院で「リンパ浮腫セラピスト」として働く現役のがん医療従事者でもある。そんな経歴もあって、マスメディアは普通の本以上の関心をもって取材してくれているのだが、なかなかこれが形になって表に出ないのだ。もう2週間以上、マスメディア対策に忙殺され、メディア側も重い腰を上げて取材してくれてはいるのだが、オンエアーや全国区の紙面に登場とまでは至らないのである。

テレビや全国区の新聞が取り上げてくれれば(すでに取材はすんでいるのだが)、本はバーンと売れる予定なのだが、そううまくことははこばない。それはわかってはいるのだが、「何とかの生殺し」状態が2週間も続くと、いい加減疲れてくる。メディアのほうもいろんな事情があるのだろう。もう少し辛抱して待つしかない。

初期の予定では、もう増刷の準備に取り掛かり、その段取りができれば小生の役割は終了、数日間休みをもらって東北各地をブラブラ小旅行でもする目論見だった。でも人そう予定通りには進まない。今日出るか、明日は放映されるか、毎日固唾をのみながら、ここまできてしまった。
それにしてもメディアの取り上げ方次第で本の売れ部数が9割方決まってしまう、というのも怖い世界だ。理想は「本の力」で読者を勝手に獲得していく、というものだが、もうそんな世界はどこにもない。この『ミラクルガール』の県内テレビ取材でディレクターが「本屋さんの絵をとりたい」というので、駅前のジュンク堂を紹介したら、「それは、どんな書店なんですか?」と訊き返されてしまった。本を取り巻く世界はこの程度である。「本の力」なんて幻想なのかもしれない。
(あ)

No.484

ドキュメント政権交代
(河出書房新社)
武田一顯

ふだんは政治的な問題には意識的に「無関心」を決め込んでいる。いい年をして政治問題で言い争いするのはカッコ悪いと思っている。学生時代、デモやストに参加しアホ政治論争で社会や身近な人々に迷惑をかけたという自省も強い。政治というのは「怖いもの」。そういった骨がらみのトラウマがいまも身体の隅々に残っている。が、このたびの政権交代だけは無関心ではいられなかった。「これってもしかすると革命かも」というほどの衝撃を受けた。自分が生きているうちに「革命」を見ることが出来た、という強烈なインパクトがあった。89年のベルリンの壁崩壊は、外国の出来事でもありあまりリアリティがなかったが、今回の政権交代はまったく違った衝撃だった。本書は何冊かまとめて読んだ「民主党政権本」のひとつ。本書の特徴は、この革命の主人公として「小沢一郎」をメインに据えた点だろう。著者はTBSラジオの国会担当記者、政治ジャーナリズムの世界では有名な人らしい。TBSがない秋田ではは初めて聞く名前だ。小沢一郎と特別信頼感を持っている人物のようで、その懐深く飛び込んで取材した「深さ」が感じられる本だ。私自身は小沢一郎の政治手法及び生き方の根源に「差別され侮られてきた東北人千年の怨念」が横たわっているように思えるのだが、どうだろうか。

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