Vol.491 10年3月6日 週刊あんばい一本勝負 No.485


いらないものを抱えて生きてきて

ちょうど仕事が一段落、いわゆる「谷間」というやつで、この機会を利用して前からやろうと思っていた大掃除を決行した。意を決しないとこれはなかなか前に進まない。仕事の合間にやっていると集中力が途切れ、どうでもよくなってしまうから、こればっかりは最優先事項と決めてかからないと、途中で挫折してしまう。
掃除とはいっても10年に一度というおおがかかりなものだ。自分の仕事場、資料などをストックしている倉庫、自宅書斎の3か所がターゲットで、とにかく不要なものを徹底的に「捨てる」。これが今回の大掃除の目的である。

やってみてわかったのは「絵」の多さだった。もらったり、買ったり、つくったりしたものが、ものすごいスペースをとっていた。「つくったり」というのは説明が必要だ。絵ハガキや印刷物の中に気に入った絵があると、けっこういい額縁を買ってきて、自分で額装する趣味があるのだ。ほとんどがタダか100円絵ハガキなのに額装にけっこうカネがかかっている。だから印刷物の色があせても額がもったいなくて、捨てるに捨てられず、倉庫に眠ったままになっていたのである。
昔のレコードもすごい量あったなあ。LPからSPまで、CDでも持っているのだが、これも捨てられない。お金のなかった時代に苦労して買いためた記憶があるからだろう。過去の本を書くときに使った資料類は中身を確認することなく全部段ボール箱ごと、捨てた。いちいち中身を確認していると作業が中断してしまう恐れがあるからだ。

30年近く前、山に登るために買った寝袋やリュック、スキーの装備、カヌーの備品もすべて捨てた。いまも使えそうなものはもらってくれる人がいたが、あとはもうやみくもに捨てた。いらないものを抱えて生きていくのは、もう、まっぴらだ。ものは少し足らないと感じるくらいが、ちょうどいい。
還暦を過ぎて初めてそんなことに気がついた。

この3か所の大掃除に約3日間かかりっきりだった。ほぼ終了し、倉庫も書斎も、ものは半分ほどに減った。ずいぶんすっきりしたが実は最大の難関である「本」と「服」の大掃除はまだ終わっていない。本は定期的に処分しているので慣れているが、服の処分は何度も挫折。でも近日中に何とか実行に移すつもりだ。
(あ)

No.485

暴走族だった僕が大統領シェフになるまで
(新潮社)
山本秀正

 題名に惹かれて買い求めたものの、なんとなく題名の奇抜さと大手正統派といわれる出版社の「ミスマッチ=そぐわなさ」を感じる。読み始めてその違和感の正体が少しわかった。文章にするのは難しいのだが、「料理が好きで、すごい技量の持ち主で、国内外の絶大な評価をえた人物」というのが本当なのか、最後までよくわからないし、半信半疑は読後も残ったままである。遊び人が料理の世界で生きてきた。その就職先(有名ホテル)には大統領も来た、いろんな有名人とも知り合いになった。その程度の出来事のオンパレード。新潮社じゃなくて双葉社とか草思社(まだあったっけ)あたりが出しそうな本、という印象のほうが強いのだ。著者名の横に付されている「マンダリンオリエンタル東京初代料理長」という肩書も嘘ではない。が、実はとっくにやめた肩書なのだ。現在は日本のレストランのプロジュースやコンサルティングを商売にしているそうだ。なるほど最初に感じた違和感はこのへんの「あいまいさ」にも含まれていたのかも。よくわからない職業に付される「プロデューサー」という肩書の「いかがわしさ」が本書にはある。本当にすごいシェフなら、まず現場から離れることは、たぶんない。これは新潮社の出版物のレベルではないなあ、というのが正直な読後感でした、ごめん。

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