Vol.502 10年5月22日 週刊あんばい一本勝負 No.496


若者相手に本をつくるのは可能か

週初めに「今週は書を捨てて町へ出よう」などと寝言めいたことを言っていたのだが、週の後半はずっと雨、机の前に垂れこめる日々が続いてしまった。
それでも前半はいろんな人に会い、へんな企画をいっぱい思いつき、人と会う面白さに酔い、ひとりニヤニヤしたりする日々。
ということは寝言の半分は実践できたのかも。

企画というのはいわば企業秘密。とエラソーに言うことのほどでもないが、無造作に公表できない類のもの。ではあるのだが、ちょっぴりその核のようなものを言わせてもらえば、そこに通底する共通の芯がある。いや芯というほどオオゲサなものでもないか。企画の根っこが「ヴィジュアル系」であること、読者層が20代から40代あたりに想定していること、などだ。

もともと地方出版というのは高齢者の出版といった傾向が顕著なものだ。それは今も変わらないが、このところうちの出す本は、著者の年齢層が急速に下がっている。著者の若返りが進行しているのだ。若者へ「最後の望み」を託しているのかもしれないが、ありていに言えば自然にそうなった、としか言えないのだが。

なぜ若者向けの企画が多くなったのか。つらつら考えていたら、思い至ったことがあった。私個人がこの頃読んでいる本に、ある種の傾向があったのだ。
それはA5判で100ページ前後、定価は1200円前後で並製本、中身は漫画と文章で著者のほとんどは30代前後の若い女性……といった傾向の本ばかり夢中で何十冊も読んでいることに思い至った。

本の例えとしてわかりやすいのは「日本人の知らない日本語」という、あのベストセラー本を思い浮かべてくれればいい。「悩んだときは山に行け!」「ローカル温泉で温泉ひとりたび」「だらだら毎日のおでかけ日和」といった、メディアファクトリーや幻冬舎といった版元が積極果敢に出版している一連の「女子もの、グータラ、フツーの日常生活」の若者女子マンガエッセーにはまっている。一連の企画はあきらかにこの傾向に影響を受けているものばかり。大丈夫か、還暦のジブン。
(あ)

No.496

SUMUS13 まるごと一冊晶文社特集

私たちの年代(団塊世代)にとって晶文社という出版社は「特別」の存在である。岩波や講談社にはなんのシンパシーもないが、晶文社は別。その名前を聞くだけで、いっきに青春時代に戻ってしまえる魔力をもった出版社である。20代30代40代と、いつも晶文社がどんな本を出すのか、毎月の新聞広告を見るのが楽しみだった。20代で出版をはじめる前、今や伝説と化した雑誌「ワンダーランド」の編集現場を見せてもらうことが出来た。西神田にあったボロボロ2階建ての社屋にお邪魔したこともあるし、故・中村社長に京都で御馳走になったこともあった。幸運にも津野海太郎さんに自分の本をつくってもらうこともできたし、若い編集や営業の人たちのとも親しくさせてもらった。 ターニングポイントは内田樹さんの『おじさんの思想』あたりからかもしれない。詳しいことは紙枚の関係で書けないが、このあたりから優秀な編集者や営業の人がポツリポツリと抜け、自分の考える晶文社とは違ったテーマの本が出はじめた。編集者がすっかり変わってしまったのだろう。そうした違和感から距離を置くようになったが動向はやはり気になってしまう。個人的にはこのまま消えて伝説なったほうがいいと思うのだが、これだけの実績のある出版社だ、いろんな思惑がうごめき、ことはそう単純ではない。この名前のまま、経営者が変わり、存続していくようだ。

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