Vol.526 10年11月27日 | 週刊あんばい一本勝負 No.520 |
編集者って必要なの? | |
森まゆみさんの最新作、『明るい原田病日記』を読んだ。喜怒哀楽のはっきりした、お金を払っても読みたい闘病記になっていて、さすがプロですね。 それはいいのだが問題は版元。出版社が「亜紀書房」である。えッ、森さんの本がなぜあの社会派の出版社から、と思った人はよほどの本好き。私たちの年代にとって亜紀書房、過激な左翼系の本を出すクセのある版元として有名だ。 本を読み進めるとAさんという編集者が何度か登場する。このAさんが森さんの本をつくった人である。Aさんは業界ではけっこう有名な人で、元晶文社でそのあとバジリコ。どちらでも何冊か森さんの本を出している。あ、そうか、Aさんはバジリコをやめ亜紀書房に「移籍」したわけだ。 もちろん本書ではそんな舞台裏の事情に触れてはいない。いないが、この事実に間違いはない。作家は出版社でなく実は編集者と深く信頼関係を築いて行動を共にする生き物なのである。 ところが最近、電子書籍を配信する会社を立ち上げた作家・村上龍は、逆に「電子書籍に編集者はいらない」と言いきっている。一緒に行動するよしもとばななにいたっては、「これまでは担当編集者の好みを考えて書いてしまった」とまで語り、表現の自由を広げていくには編集者がいないほうがいい、というところまで踏み込んだ発言している。電子書籍に編集者はいらないが、その代わり作家は従来の10パーセントではなく40パーセントの印税をとる、と。なるほど、それもありかも。 編集者が必要か不要か、ということを論じたい訳でない。村上龍の立ち上げた電子書籍会社には(作家にとって)バラ色の未来が待っているのだろうか。 電子書籍の先進国アメリカでは「電子書籍の浸透による文芸作家の試練」がいま大きな問題になっている。この事実を知って村上らは会社を立ち上げたのだろうか。印税率は高くても本体そのものの定価が安い電子書籍では、印税率が上がっても実は作家の印税や前払金は紙本よりも減っている。これはアメリカの作家たちの間では深刻な問題でウォールストリートジャーナル紙は「作家を職業にするなら、収入源をもうひとつ持つべきだ」(出版ニュース)と書いているほどである。アメリカでは電子書籍の隆盛によって本のありようが加速度的に変化しつつある。このアメリカの成り行きと動向をもう少し見極めてから(せっかく先行実験をしてくれているのだから)、行動に移しても遅くなかったのではないだろうか。 (あ)
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