Vol.540 11年3月19日 週刊あんばい一本勝負 No.534


大地震――この1週間の日記から

「今日の出来事」に書いたこの1週間の日記を若干補足して、採録します。この震災をどのように自分で考えるか、まだまとまっていません。被災地の一刻も早い復興を願っています。

3月10日 朝、地震で目覚めた。外は小雪、というか時々吹雪。こんなときに大きな地震で外に放り出されたら凍死が一番の問題、などとボンヤリ考えた。頭はパニックで熱くなっているのに身体は寒さでガタガタ、不安と恐怖でまともな判断ができない。こんなときこそ危機管理のシュミレーションをしっかりやっておくべきなのに、頭の中には何も浮かばない。寝床から飛び出して、ありったけの衣服を身につけ、まずは防寒して、それから行動に移る。それだな。

3月11日 外は銀世界。冬に舞い戻ったような景色。でも身体に感じる気温からは寒さを感じない。冬の中にかなりの確率で春が紛れ込んでいるからだろうか。屋根から溶けた雪の滴が落ちる音は、身近に春を感じさせてくれる最高の効果音。空は晴れているのに小雪がちらついている。雪がやむとすかさず屋根から雪の滴が落ちる音。やっぱり春ですね雪国も。

3月12日 いま電気がつきました。12日午後6時です。散歩をしていたら、とつぜん自販機の電気がついたので、停電解除を知りました。テレビがついて、はじめて太平洋側の被害の甚大さに驚いています。テレビは1日半ぶり。地震発生からまったく情報が途絶。改めてよく確認してみると、停電だけで何も壊れていないし、倒壊もなし。本も崩れてないし、事務所の破損もなし。月曜から普通に仕事をします。ご心配いただき深謝します。

3月13日 いろんな方からお見舞いの電話やメールをいただく。ありがとうございます。秋田は他の被災地に比べれば周辺被害は軽微、いやほとんどないと言い切っていいぐらい。水も電気もガスもちゃんと通っています。それより太平洋側の甚大な被害地域が心配です。それと原発。停電で情報が遮断されていましたが、電気がついて他の被害地の惨状をはじめて知り、驚いているのが現状です。

3月14日 同じ東北といっても太平洋側と接している国々を昔は「陸奥(みちのく)」といい、日本海側に面した2つの国は「出羽」と呼び、区別していました。今回の地震は「陸奥」で起こったもの。秋田、山形の「出羽」は被害軽微、東京よりもずっと被害は少ないと思います。それよりも日本の心臓部である東京に輪番停電が及べば国土全部を巻き込んだ深刻な問題になる可能性がありますね。

3月15日 私の住む広面地区は大学病院のある街。地震後、救急車のサイレンの鳴りややむときがない。まるで被災地のど真ん中にいるようだ。さらに周辺に大きなガソリンスタンドが5つほど集中している。ここに車が群がっている。それ以外は平穏な光景なのだが、目の前でサイレンが鳴り続け、ガソリンを求める車が路上に溢れている。

3月16日 今日は秋田地裁で元鷹巣町長の選挙違反事件の判決がある日だ。朝から傍聴券を手に入れるため準備をしていたのだが新聞社に確認の電話をいれると、地震のため4月に延期とのこと。昨日発表されたものらしい。30万円の選挙買収で逮捕され、なんと368日間勾留されるという村木厚子さん以上のすさまじい「事件」である。詳しくは今週の週刊朝日にジャーナリストの大熊一夫さんが「冤罪事件」としてレポートしている。

3月17日 1年前に出した「ミラクルガール」という本が2,3日前から急に売れ出した。なぜ? 著者は石巻赤十字病院勤務の若い女性。秋田に帰省中だったので地震の被害には合わなかったが、石巻のアパートは水没した。津波で石巻赤十字病院への検索が多くなり、そこで本のことを知り買い求める人が増えたのでは、というのが著者の推測だ。あるいはツイッターなのか、真相はまったくわからない。今朝、モロッコで働いている日本人の友人から「心配している」というメール。山に入っていたので(鉱山師である)まったく知らなかったそうだ。

3月18日 事務所の電波時計がくるってしまった。地震の影響だろうか、と調べてみると電波塔は福島にあり、原発の近くである。そうか、それならしょうがない。周波の違う電波時計は正常に動いているのでメーカーによって福島から電波受信しているものだけがダメになったようだ。話は違うが、食料を買い溜めすれば復旧後、田舎の飲食店はほとんどつぶれるような気がするのだが、うがちすぎだろうか。
(あ)

No.534

象の旅――長崎から江戸へ
(新潮社)
石坂昌三

元厚労省局長の村木厚子さんが獄中で読んだ本のリスト(「オール読物」収載「私の読んだ150冊」)のミステリー中心の本群の中に、この本が入っていた。おもしろそうだなと思って買い求めたのだが、92年の発行だから20年前の本である。著者の名前もどこかで聞いたような……と思ったら映画評論家だった。「象を観たい」と言い出した徳川8代将軍吉宗の要請にこたえ、唐船で長崎に運ばれてきた「献上象」の、江戸までの80日間の道中を克明に追ったものである。テーマとしてはおもしろい。あとはどのような視点でルポにするかが問題なのだが、ごく平凡な時間軸に沿った歴史読み物の域を出なかったのが残念だ。資料をつなぎ合わせて事実経過を報告するだけの、単調なふくらみのないものになってしまった。趣味の域を出ていないという言い方は失礼か。映画評論家の著者がこのテーマと会ったのは東海道の宿場歩きを趣味にしていて、その周辺に友人が多く資料が簡単に集まったためのようだ。同じテーマを吉村昭とまでは言わないが、高野秀行や宮田珠巳といった人たちが書いても面白かっただろうな。

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