Vol.574 11年11月12日 週刊あんばい一本勝負 No.567


忙しさの連鎖から抜けて

11月6日 山形市で出版パーティがあり泊まり。次の日、蔵王に登って新庄に寄り、連泊予定だったが、どうにもいろいろ気がかりの仕事が後ろ髪を引き、幸い朝から雨模様だったので蔵王、新庄をキャンセル、急遽帰ってきた。さっそく仕事。なんだか事務所にいると緊張していた気持ちがユルユル溶け出し和んでくる。自分でも何とも説明できないヘンな感情である。どこにも出かけず、だまって仕事をしていなさい、ということなのかな。

11月7日 今週は2冊の新刊ができてくる。春の終わりからずっとあたふたしていた仕事が今週でほぼ方がつく。長かったなあ。本はなかなか売れない。でも、つくる本があるというだけでもありがたい。といいながら、実は昨日、断腸の思いである「震災本」の出版依頼をお断りした。いい原稿だったのだが、うちでなければ、という仕事でもない。残された時間は多くないから「やらない」という選択肢も重要、と最近ようやく思えるようになってきた。

11月8日 30万キロも乗ったボロ車が12月にようやく廃車、新しい車が来ることになっていた。が、タイの洪水で部品が届かず納期が来年に延びそう、と連絡が入る。新車が来たらすぐに山行で汚れてしまう。その前に年末遠距離ドライブでも、とひそかに楽しみにしていたのだが。世界を驚かせている大事件が、まさか極北の田舎に住む自分と絡み合うなんて……。方向音痴なので車の運転は苦手なので、ドライブなんて言う発想はめったに出てこない。そういう意味では惜しいチャンスを逃してしまった。

11月9日 「50歳を過ぎると、希望を持って朝を迎えるという日は、少なくなるばかり」。昨夜読んでいた小説の中に出てきた一節。もう40年近く前の小説なので、50歳を60歳に置き換えてもいいだろう。確かにこの言葉に実感はある。あるのだが立ち直りもけっこう早いよお、中高年は。「本は売れなくなる一方だが、今つくってる本は別。これはひょっとして売れるかも」……寝起きのボンクラ頭で、懲りずに中高年はニンマリしたりする。そうか、この飽くなきバカさ加減が、わが仕事の持続の源泉であったのか。

11月10日 そろそろ来年の手帳やカレンダーを買う時期だ。もう5,6年同じ会社のものを使っていて、それは「ロフト」でしか販売していない。直接注文すると郵送料が高いので、出張で東京や仙台に行った時に買ってくる。今年から秋田駅前に小さな「ロフト」店がオープン、そこで買えるようになった。さっそく昨日、買い求めてきた。便利だなあ。でも簡単に買えるようになると、ありがたみも薄れる。同じ会社の手帳やカレンダーをこんなに長く使っている理由はただ一つ、書くスペースが広く、カレンダーの文字を消せる(変更できる)、ということに尽きる。

11月11日 今年予定していた本はほぼ出そろった。ちょっとのんびりしたい気分だが、「いつものんびりしてるじゃないか」という外野の声も聞こえそう。昨日土曜日は大館市にある竜ケ森という山に登ってきた。県北部の山は遠いせいもあってなじみが薄いのだが、若々しいブナに囲まれ落ち葉でフカフカの道を堪能してきた。調子に乗ったのか、浮かれていたのだろう、帰りの温泉でタオルを忘れてきてしまった(問い合わせたら、着払いで送ってくれるそうだ、うれしい)。
(あ)

No.567

ご先祖様はどちら様
(新潮社)
高橋秀美

なんだか最近「ルーツ探し本」が多くありませんか? 寝床の横の積んどく本の中にも2冊、自分の家系をさかのぼる話題の本がある。本書はその中では立ち位置が「いいかげん」で「柔軟性」がありそうなので一番先に読み始めた。それが正解だった。そのいい加減さがなんとも面白い。ユーモアがあるし、歴史の持つ堅苦しさから、ひょいと身軽に逃れて、エンターテインメントとして成立させている。自分探しの本に興味があるのは、60歳を越してから私自身が自分のルーツ探しに興味を持ち始めたからだ。たとえば「安倍家」のルーツは1600年前後までは、ちゃんとした記録が残っている。私の先祖は山形・天童で「山辺城」といわれる小城の城主だった。どうやら幕府とうまくいかない天童城主・最上のお目付け役のようなことを命じられていたらしい。だが最上との戦いに敗れ、秋田は増田村に逃げ、そこでなぜか安倍姓を名乗り、百姓を始めた、というのだ。しかし徳川の時制になる以前の戦国時代にどのような歴史がわが先人に存在するのか、それは皆目分からない。調べようがないのだ。本書では、そのへんはおおざっぱで実に爽快だ。「私のっ先祖は市川行房(清房)につながっており、その父親は源義清で、その17代末裔が武田信玄である。つまり信玄と私は大まかに推算すると、約52親等の遠い親戚」といった記述が随所に出てきて、結局いたるところ天皇の親戚になったりする。いいなあ、こういう本。

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