Vol.576 11年11月26日 週刊あんばい一本勝負 No.569


右手だけなくしてしまう手袋の謎

11月20日 金曜代休の余録だ。土日に目いっぱい仕事ができた。週末は電話もメールも来客も極端に少なくなる。仕事に集中するにはサイコーの環境。仕事がずいぶんはかどって儲けた気分。ところで、金曜の山行は快晴の雪山登山。30センチ以上の積雪で登山靴がきれいになった。これも余録。調子に乗って昨夜の豪雨を利用、山で泥まみれになった車を洗おうと一晩中外に出しておいた。余録狙いだ。が、こちらは大失敗、泥が跳ねてもっと汚くなっていた。

11月21日 仕事の大きなヤマは越えて一段落、と行きたいのだが、冬に出る予定の本の準備に追われてアタフタは続いている。こんなふうにダラダラ目の前の仕事と追っかけっこをしているうち人生は終わってしまうのだろう。夜は意識して仕事をしないよう「努力」するしかない。その昨夜読んだ『計画と無計画のあいだ』(三島邦弘著)は今注目の若手出版人の自伝。そうかこんな30代もいるんだ、と感心しながら読了。自分の若いころとはレベルが違う。こんな人たちなら厳しい出版の未来を切り拓いていけるかもしれない。出版業界の本は概してつまらないのが常だが、この本は珍しく面白かった。

11月22日 寒い。手袋の季節だ。山に登るようになってから手袋の所有数が増えた。指のでる夏用からスキーのグローブまで10双は楽にある。汗っかきなので山では手足がすぐ冷える。山行には夏でも二双の手袋を持っていくほど。今朝、その手袋を整理していたら片手しかないものが三本も出てきた。無いのはすべて右手だ。山で作業するときに脱ぎ、そのまま紛失したのだろう。柄が違っても両手がそろえば一双で使うつもりだったが、人生はそううまくいかない。

11月23日 料理が趣味の友人が「イカが安いから」と事務所でひょいひょいとイカずくしの料理を作ってくれた。お刺身(黒造りに白造り)から鍋までのフルコースだ。黒造りというのは刺身にイカスミをかけ大根と一緒に食べるもの。絶品だった。ついでにイカの正しいさばき方も教えてもらった。一番の収穫は鍋に使う春菊。茎からきれいに葉っぱだけをむしり取り、葉っぱは葉っぱで、茎は茎だけで煮る。こうすると春菊の香りや味が際立つ。料理ってこうしたディテールなんだよね。いやはや奥が深い。

11月24日 師走から来年1月にかけて出る本のスケジュール表をつくっている。これがけっこう難しい。お正月が挟まるので中断期間を計算しなければならない。毎年のことだが普通の時期より納期が10日は遅れる。同時に12月に出る新刊は下手をすると年明けとともにすべてを「リセット」するという日本的慣習の犠牲になり、「なかったこと」にされる可能性もある。年内に刊行しているのに奥付は来年という本もよく見かけるのはそのためだ。

11月25日 健康診断の結果はまだだが「再診」マークは必至だろう。毎年毎年、結果に一喜一憂するのも健康上どうかと思うが、再診マークがついても医者に診てもらうことはほとんどない。医者は嫌いだ。と言いながら昨日は歯医者へ。年に5,6回は歯医者に行くが不思議なことに歯医者は嫌いではない。命に別条ないからか。ちょっとでも異常があると迷わずかかりつけの歯医者に行く。もっとガリガリやってほしいのに、あっけないほど簡単に治療は終わった。明日も行きたいくらいだ。それは冗談にしても、軽々と夜食を食べるように胃カメラを飲めるようになりたい。飲まないのが一番なんだけど。

(あ)

No.569

塩の道
(講談社学術文庫)
宮本常一

私の周辺には宮本ファンがたくさんいる。著者の間にも根強い人気があるようだ。なのに、小生は食わず嫌いなのか、なかなかこれまでとっかかりがなかった。何度かその著作にトライしてきたのだが最後までちゃんと読みとおせた本がないのだ。ところが本書はすんなり読み通せた。宮本民俗学の体系を知る格好の手引書だったからだ。この本が最初なら、たぶんだれもが宮本ファンになるのではないだろうか。生活学の先駆者として、晩年に講演した話の中から「塩の道」「日本人と食べもの」「暮らしの形と美」という日本文化の基層になる3点の話を収録している。とくに「塩の道」は面白い。目から鱗の話が盛りだくさんだ。塩の運搬にかかわった馬や牛と日本人の生活、引いては東日本と西日本の暮らしの違いなど、ハラハラドキドキするほど興味深いエピソード満載だ。が、あまりに明快な史観に疑問がないわけではない。たとえば馬の使役について、東日本は「馬を家畜として飼い、口輪で引き」、西日本は騎馬民族の影響で「兵器や乗るものとして利用した」といわれて納得しそうになるが、大陸からの騎馬民族の侵攻そのものが、歴史家たちの間で定説がない。宮本民俗学を歴史家たちはどのように位置付けているのだろう。

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