Vol.577 11年12月3日 週刊あんばい一本勝負 No.570


モズク鍋と小学生

11月27日 どうにも困ったことがだが日曜日とは実に相性がいい。なにがって? 仕事デスよ。日曜の仕事はとにかく集中できる。長時間の「しんどい」仕事は、集中力のない週日は無理。来客や電話、印刷所や舎員対応で時間が「細切れ」になる。そのてん日曜は天国だ。ときには10分で仕上がる仕事を、鼻くそほじくりながら2時間かけてやったところで誰からもとがめられない。逆に死ぬほど集中して半日がかりでひと仕事をクリアーしても誰も褒めてもくれない。達成感があるのはやっぱり日曜日。そんなわけで今日もみっちり日曜労働。正直なところ毎日が日曜日だといいなあ、と思っているのだが、山行もあるからそうもいかない。

11月28日 今週半ばで11月も終わり、か。月3本ペースで新刊を出してきたが、来月は1,2本どまりになりそうだ。そのぶん1月や2月に振り分けられる。年末新年はメディアも本どころではない。書評やニュースで取り上げられる頻度はガクンッと減るから、どうしてもそこを避けて11月や2月の新刊が多くなる。そんなこともあり毎年年末に出していた冬のDMを少し早めに出してみることに。効果があればいいのだが。

11月30日 2泊3日で東京出張。なんとなく東京へは興味が失せて足が向かなかったのだが、まあ仕事だからしょうがない。宿屋が丸の内で、毎日たくさんのサラリーマンばかりみていた印象だ。それにしても人が「むやみに」多い。仕事があるからいるのだろうが、ここまで一極集中した都市というのはどうなのかな。毎週山に登ったり、気軽に野山で遊ぶことのできない地域というのも、慣れればどうってことがないのだろう。ところで、銀座で靴を買ってしまった。裸足でレントゲンのようなものを撮ってもらい、ジャストフィットの靴が26センチと言われた。登山靴は27.5センチがベストだったのに、普段の靴はこんなに小さいの。とりあえずその靴を履いて帰ってきた。やっぱり窮屈で先が当たって痛い。締め付けられる感じがある。もしかしてデータや機械を信じて大失敗したのかも。まいったなあ。銀座の靴屋で対応してくれた店員さんが同じ秋田出身ということで、ちょっと甘くしてしまった結果だ。

12月1日 朝から事務所前に4人の小学生がたむろしている。立ち止まってぺちゃくちゃおしゃべりしているので、注意しようと思い、不意に思い出した。今日は9時から「職場訪問」を約束していたのだ。4人の男子小学生は「作家志望」で出版社に興味があるのだそうだ。好きな作家は? と訊いたら速攻で「はやみねかおる」と返ってきた。知らない誰それ? ライトノベルの人気作家らしい。彼らの口から出てくる固有名詞のほとんどを理解することができなかった。老兵は去りゆくのみ。1か月に10冊近いライトノベルを読む子もいた。いじめられないといいのだが。

12月2日 モズクは海藻。これとネギを出汁で炊いてポン酢で食べる「モズクしゃぶしゃぶ」なるものを昨夜食べた。友人が作ってくれたのだが、そのうまさをどう表現したらいいのか難しい。とにかく酒も白ワインもスイスイすすむ。蕎麦前のイタワサと焼ノリに似た食後感と言ったらいいのかな。蕎麦に相当するのが最後の雑炊。これも淡白ながら味が深く、しみじみとうまい。いろんなものを食べ歩いてきたような気でいたが、身近にこんな単純な「未体験料理」があった。酒がうまくなる鍋って珍しい。収穫だなあ。まだまだ知らない食べ物がありそうだ。

(あ)

No.570

くちぬい
(集英社)
坂東眞砂子

この著者の本を読むのは初めてだ。確か外国に住んでいる人でなかったかな?
昔、彼女の「山姥」という話題の本を買ったことがあったが、結局読まなかった。一番苦手なホラー系ミステリーとわかったから。本だけでなく映画もホラーだけはまったく観る気がしない。フィクションの世界を楽しみたいのに「不快」や「残忍」や「暗闇」など好んで味わいたくはない。本書は書き下ろしで、3.11の震災後、放射能を逃れて東京から四国へ疎開した団塊世代の夫婦の物語だ。そのシチュエーションに魅かれた。震災後の日本人の具体的なアクションを描いた小説は新鮮だし、多くの人が興味を抱くテーマで、その意味ではタイムリーである。そこにわたしも魅かれたのだが、やはり作家の特性は変わらない。徐々に疎開生活のなかに「奇怪」で「不可解な」現象が起きだし、物語は限りなくホラーに近づいていく。もうこうなるとこちらの興味は一挙にさめてしまう。放射能も村暮らしも団塊世代も、どこかに飛んでいってしまう。最後には血が流れ、人が死ぬ。この作家の本を選んだ時から、そのへんは想定済みで読まなければならない。団塊世代夫婦の第2の人生物語で終わるはずはないのだ。でもなあ、やっぱり人が死ぬ話は苦手だ。

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