Vol.607 12年7月7日 週刊あんばい一本勝負 No.600


好天・若鮎・7月の朝

6月30日 毎日、気持ちいいぐらいの快晴が続いている。明日あたりから崩れそうだが、もう十分青空を堪能した。そうか、もう6月も終わりか。谷川岳の疲れもとれ、ルーチンである朝の筋トレ&ストレッチもいつもどおり継続中。6月はまさに「筋トレ&ストレッチ漬け月間」だったが、7月も継続するつもりだ。朝5時半起きにもだいぶ慣れてきたし、なによりも好天がそれを後押ししてくれた。今日は1日のんびり「料理日」。頭の中が空っぽになる点は山登りと同じだ。

7月1日 いやはや料理って疲れる。5時間ぐらいぶっ続けで何種類かの出汁やソース、スープ系の日持ちのする基本食材をつくった。テレビで野球観戦しながら、かつワイン飲みつつの作業なので、終わったとたん倒れこみそうになってしまった。谷川岳並みの疲労感だ。それでも毎週確実に1品あたりの調理時間は短くなっている。包丁も手入れをしているので切れ味はいい。後片付けのスピードも増している。料理中の酒は不思議とうまい。 でもやっぱり疲れ方は尋常ではない。

7月2日 7月である。7月といえば「秋田市ゴミの有料化」初日。朝の散歩で注意深く見て歩いたのだが、白袋は思ったより少なく黄袋(今回の値上げ用ゴミ袋)がほとんどだった。早朝だからだろうか。白袋が出てくるのは、もっと遅い9時前後あたりからなのかもしれない。なにせ悪い奴ほどよく眠る、って偏見か。うちもさっそく昨夜黄袋を買いに走ったのだが、コンビニでは「なにそれ?」って顔をされ、まだ売っていなかった。事務所のゴミは業者に依頼している。これまで通りの白袋が使えるのだが、秋田市の焼却炉は最新式でほとんど分別の必要がない。だからどうしても事務所のものも、市のゴミ日に一緒に出してしまう。

7月3日 ちょっと前、秋田大学の先生が全国向けワイドショーに出演していた。珍しいなあ、と思っていたら、件の先生、今日の新聞の肩書はナントカ研究所の研究員だった。先生からトラバーユ、中央のシンクタンクへ栄転である。昔、秋田の私立大学にタレント教授・栗本慎一郎氏が鳴り物入りで赴任したことがあった。地方大学にくる有名人教授のほとんどは大手芸能プロダクションの差配による、ということをその時初めて知った。もう30年も前から、学問と芸能には薄皮一枚の差しかなくなった。地方の人気教授がそのまま地方で一生を暮す、というライフスタイルはもう存在しない。それは料理人であれ、デザイナーであれ、大工さんであれ、みな同じ。高給優遇の場所へ、才能のある人は移動し続ける。

7月4日 1日は鮎の解禁日だ。それもわが人生には縁のない話だと思っていたが、友人のSシェフは鮎釣り名人。さっそく解禁日の鮎をおすそわけで、数匹いただいた。私の人生もまだ捨てたもんではない。数時間前まで川を無邪気に泳いでいたピチピチのやつの糞をこそげ出す。これももちろん初めて体験だ。糞があるのは天然である証拠。養殖は糞をなくしてから出荷するからだ。鮎に触った手はうっすらとスイカの匂い。本当だったんだスイカの匂いっていうのは。塩焼きに合わせたのは冷えた青森の田酒。すいすいと酒がすすむ……あれッ、おれって自慢してる、この話。イヤミに聞こえたら、ごめんね。

7月5日 ほとんど大学には行かない学生で、しまいには除籍になった。試験を受けた覚えも授業の内容も覚えていない学生もどきである。それでも7月10日から長い夏休みが始まる、ということだけは今も鮮明に記憶している。もう何の関係もないのに7月10日が近づくと、ひとり勝手にわくわくする。最近、年甲斐もなく付き合っている秋大新聞部の連中に、その夏休み前に飯でも食わせてやろうと連絡をとったら、「夏休みは8月中旬からです」と言われた。エッ1か月もズレてるの。そうか、もう40年も前の話だもんなあ。しょうがない。言ってしまった手前、学生のH君とWさんの3人で近所のガテン系焼肉屋へ。 たらふくやけ食い。

7月6日 三木卓は詩人としてH氏賞、小説家としては芥川賞から芸術選奨、谷崎、読売、毎日、野間児童文学賞まで文学賞を総なめした作家だ。その作家が亡き妻のことを書いた『K』(講談社)は、ちょっとすごい「夫婦不仲小説」だ。読みながら茫然、唖然、慄然。安定も名誉も手に入れた作家なのに、いまあえて亡くなった自分の妻の恥部を赤裸々に書かねばらなない「作家の業」に脱帽。もちろん罵詈雑言を書き連ねている単純な物語ではない。ユーモアを交え、戸惑い、冷静に、円満とはほど遠い夫婦生活と詩人である妻の生涯を描いている。
(あ)

No.600

おもしろくても理科
(講談社)
清水義範

もう20年も前に出た本である。古本屋で100円で買ったのだが、文庫も出ているのを知らなかった。挿画は西原理恵子で、この絵がまたすさまじい。著者をめちゃくちゃに小馬鹿にして茶化しまくる。これほど文章と挿画に隙間と乖離がある関係も珍しい。が、そこは編集者がすぐれているのか、読者がりっぱなのか、このすさまじいいっけん不仲コンビに拍手喝さい、以後、何十冊という本でコンビを組み続けることになる。本の世界は奥が深い。本書の最初の講義は「慣性の法則」。挿画の西原の質問がきっかけだ。走っている電車で飛び上がったとき、どうして飛び上がったその同じ地点に下りてしまうのか。これはへんじゃないか、という質問に答え、清水が懇切丁寧に答えている。理論的に答えは明確だ。ニュートンの法則で、静止している物体は力を与えない限り静止し続け、動いている物体は動き続ける。電車の中でジャンプした人間は、空中にあっても電車と同じ方向へ同じ速さで動いている。それゆえ同じところに着地する。というのは理屈では分かっていても、これを、はなっから著者の清水を信じていない西原に説得して納得してもらうには、その文章の限りを尽くさなければならない。この関係が生み出した、本書はベストセラーでもあるのだ。とにかく面白い。

このページの初めに戻る↑


backnumber
●vol.603 6月6日号  ●vol.604 6月16日号  ●vol.605 6月23日号  ●vol.606 6月30日号 
上記以前の号はアドレス欄のURLの数字部分を直接ご変更下さい。

Topへ