Vol.608 12年7月14日 週刊あんばい一本勝負 No.601


梅雨と電子書籍と若者たち

7月7日 楽天が電子書籍の端末を7千円代で出すという。何度もここでは書いているのだが、電子書籍の普及はそう簡単ではないだろう。だが、大きな時代の流れは「紙からデジタルへ」というのはまちがいない。ようはソフトの問題をどう解決していくかなのだ。既存本はたやすく電子化、販売可能だが、新刊の電子書籍化は著者印税や著作隣接権など、クリアーしなければならない問題が少なくない。それでもこのたびのキンドルや楽天端末は「爆発的に」売れるかもしれない。でも新刊本が即電子書籍になる、というのは考えにくい。となるとネット通販大手が栄えてソフト製作者(著者)の暮らしが成り立たない、という事態になる可能性も十分に考えられる。いずれにしても紙の編集者が一朝一夕に電子書籍の編集者になれるわけではない。別の職業と考えるべきなのだ。

7月8日 昔から友人に鉱山関係者がけっこういた。秋田大学に鉱山学部があったせいだ。今、世界で話題のシュール(頁岩)オイルが、どうやら秋田で(日本初)試験生産が始まるようだ。泥岩層に含まれる石油の存在は以前からわかっていた。が採掘方法がなかった。それが水圧で岩を割る方法が開発されたことにより北米で一挙に「シェール革命」が起きた。そういえば鉱山の宝庫だった秋田県の多くの鉱山がみるみる廃坑に追い込まれ、衰退していった理由はあまり知られていない。これは技術革新で他の国でも低コストで採掘可能になった時点で、高コストの秋田県の鉱山は市場から「無視」されたという理由によるものだ。鉱物はまさにワールドビジネス最前線の「商品」なのだ。

7月9日 なぜかビミョーに楽天の電子書籍端末の発売が気になりつづけている。佐藤秀峰『漫画貧乏』(PHP)という本を読んだせいかもしれない。彼は「海猿」「ブラックジャックによろしく」などの売れっ子漫画家(私はどちらも読んでないが)。なのだが、本書ではっきりと「漫画では食えない」と断言している。これにはビックリした。とにかく面白い本なので、ぜひ多くの人に読んでほしい。大手出版社はボロクソに叩かれ、未来のない出版界は散々に罵られている。そして自らHPオンラインで漫画を売りはじめるのだが……。これまでのなんとなく胡散臭い電子書籍礼讃本などとは一味違う、自分の作品を実験台にした、孤独で壮大な挑戦の記録になっている。

7月10日 いまって梅雨だよね。6月初旬から始めた朝の筋トレ&ストレッチ散歩はもう40日を越えたが雨で休んだのは1日だけ。不思議と早朝は降りそうで降らない。心がけがいいのだろうか。いや本当に梅雨なの、今。昨日発売の「サライ」にうちの「切込焼」の書評が出た。うれしい。新刊も久しぶりに出ましたよ。ようやく周りが騒がしくなりはじめたのは、いい兆候。昨夜観た邦画「ヴィヨンの妻」で、太宰が初めて心中未遂を起こした場所が谷川岳で運ばれたのが水上市の病院だったことを知った。映画を観て、先日のあの苦しかった谷川岳登山のことを思い出してしまい映画に集中できなかった。

7月11日 朝から雨。少しぐらいの雨なら、と外に出ようと思ったが、「あまりトレーニングをやりすぎるのもなぁ」と思い直し、久しぶりにサボって朝寝。今日の夜は学生たちと事務所で飲み会。トレーニングなしの飲み会だからカロリーオーバーの1日になりそうだ。ほんと「読書」もカロリー消費対象になればいいのに。読書ダイエットとかいっちゃって夢中になるぜオレ。それより今日の雨だ。「飲み会」っていったって、おれが料理や酒を用意するホストだ。朝からメニューを考え買い物に行かなければならない。でも傘がない(うそ)。いったい、いい年して、何してるのジブン。

7月12日 なんとなく山へ行く気力がわいてこない。どうしたことだろう。トレーニングはしっかりやっているし仕事やプライヴェートに問題があるわけでもない。いつでもOKなのに気持が山に向かわない。「谷川岳の満腹感」が原因だろうか。昨夜遊びに来た大学生たちは、日付けが変わったあたりから小生のipadをつかって夢中で遊び始めた。鬼気迫る遊び方だった(ipadが欲しいのに買えなかったため、だろう)。そうか、この飢餓的情熱を失っていくというのが年をとるということなのか。若者たちは小生が半日がかりでつくった手料理をすべてきれいに平らげ、何事もなかったように帰って行った。
(あ)

No.601

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか
(新潮社)
増田俊也

いつかはこの手の本が出ると思ったが、著者が北海道大学柔道部出身のノンフィクションライターという経歴には驚いた。いかに手誰のライターでも格闘技の皮膚感覚を知らない人の書くこの手の本は信用できないと思っていたからだ。それにしても去年の秋に出た本が1年もたたないうちに18版を重ねている。8ポ2段組み700ページの本が、である。書名もショッキングだが、そのいちいちにちゃんと理由があり、それは全文読みとおしたものだけがわかる仕組みというか構成になっている。それにしても長い。克明に木村の人生をたどることで結論への信ぴょう性を高めているのだが、まあ良く調べたものだ。その執拗ともいえる執念には「日本柔道史上最強の男」が八百長プロレスの力道山ごときに負けるはずがない。その裏にはいかなる取引、背後関係があったのか、というのが著者の出発点がある。それは私たち読者も一緒だ。小生も親父が「プロレスなんて八百長、木村が数段強い」としきりに言っていたのを思い出す。が、これだけの長編を使い「木村がいかに強かったか」を力説しても意味はない。物語としてもそれでは偏重にすぎるし単純な結論だ。本書はそんなにやわな本ではない。ミステリーと同じで結末やストーリーをここに書くことはできない。最後まで読むと、そうだったのか、と得心する。

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