Vol.612 12年8月11日 週刊あんばい一本勝負 No.605


立秋・節電・コボタッチ

8月3日 お盆過ぎに出す予定の秋のDMがようやく終わった。年4回の営業活動だが、いつも終わるとストレスと脱力感で、どこか遠くに出かけたくなる(でも無精なので最近はどこにも出かけない)。外に出るだけでリラックスできるのはわかっているのだが、この暑さじゃあ、ね。週末の山歩き予定も中止だ。滝巡りでもしようかという話になっている。秋田って滝はけっこうすごいんだけど、クマが怖いから行くには勇気も必要だ。海水浴というのも新鮮だが、日焼けが怖い。30年前、アマゾンで川遊びして全身が直射日光で水ぶくれになった苦い思い出がある。

8月4日 日本全国で街から毎日2店近くの書店が消えていく。そんな中、わが秋田県では6月の潟上市に続いて9月にも湯沢市に300坪クラスの大型書店「ブックスモア」がオープン。本は売れないんじゃなかったの? と不思議に思われる方もいると思うが、これは書籍チェーン大手の丸善CHIホールディングスが地方書店の運営支援のために出店したもの。地元(?)トヨタカローラ青森(青森市)と提携した書店である。丸善傘下なので「ジュンク堂」や「丸善」という書店名をつけることも可能なのだが、この2店はトヨタ系のため「ブックスモア」になった。これからは、とんでもない過疎の町にジュンク堂や丸善といった名前の大型書店が出現する可能性もある。それで採算がとれるの? それは別にあなたが心配する必要はない。

8月5日 事務所の羽アリ騒動の結果がようやくわかった。専門業者に来ていただき床に潜ってもらったのだが結果はシロ。いやシロアリの白ではなく被害なし、という意味。念のため家の周りの巣をつくりそうな場所のチェックと自宅検査もお願いした。若干、家の周りの倒木の下などに白アリが見つかったので、こいつらの絶滅をお願いした。昔と違って駆除の方法もけっこう進歩しているようだ。とにかくアリで悩むことからは解放されそうでホッとしている。

8月6日 県南部の一部の田んぼでは出穂が確認されたらしい。朝、注意深く近所の田んぼを見て回ったが、こっちはまだ。それにしてもこの暑さ、「おコメ」にとっては最高の環境のようで、豊作間違いなし、といったところか。今年の田植え時、噂話の類だろうが秋田のコメ不足が懸念されていた。これは「フクシマ」原発事故の影響で、福島、山形、宮城のコメが敬遠され、秋田ものに注文が集中する、という憶測によるもののようだ。

8月7日 立秋。朝の散歩で汗だくになるのに今日は気持のいい「秋の風」が吹いていた。ほとんど汗をかかなかったし湿気もない。家々からはみ出すように千葉やら足立、栃木といったナンバープレートの車が目についた。帰省した人たちなのか。それでなくとも広面地区は医学部があるせいか県外ナンバーの車を多く見かけるところだ。そうか帰省というか竿灯を観に来た人たちの車か。その竿灯も昨日で終わった。広島の原爆記念日も過ぎ、後はお盆休み。ずっと休みが取れなかったが(忙しいからではない)、お盆休み明けに1週間休みを取ることにした。ボーっとしながら八ヶ岳周辺を歩いてくる予定。

8月8日 今日の朝日新聞に小学館がコボタッチ(電子書籍端末)を全社員に配布とのニュース。なんかなあ、この程度の(短期間のスパンの)問題意識なの。死蔵(絶版)本の再活用で儲けようぐらいのことしか考えてないんだね、たぶん。大手出版社のもたもたフットワークでは、デジタルではもう闘いにならないと思うよ。同じ紙面の「ひと」欄に、うちの著者(「永幡嘉之さん)が「津波に襲われた三陸の生き物を見つめる写真家」として載っていた。山形大学の講師かなんかだった記憶があるが、いつのまにか東大の研究員になっていた。

8月9日 朝の散歩でも山歩きでも多くの人と出会う。そのたびに見知らぬ人たちと「こんにちは」とあいさつする。これがけっこう苦手だったが、この頃ようやく自然に頭を下げて声が出るようになった。はほとんどの女の人はあいさつを返してくれるが、無視は圧倒的に男に多い。これは散歩も山も同じ。なんとなく理由はわかるが、無視する男にもかわいらしいシンパシーを感じる。お盆休みが近いので休みの計画をつくりたいのだが、頭のなかがぐしゃぐしゃで、混乱したまま。もうしばらく時間がかかりそう。

8月10日 夜中までオリンピックにつきあっている人に文句はない。が、つい先日までうるさかった「節電」のほうはどうなっているの。オリンピックのせいで「節電」の声が小さくなったとすれば、これは問題だよね。こちらは夜に観ない分、日中テレビをつけて順位を確認したりすのだが、まあCMの長いこと長いこと。その内容もほとんど健康食品か、益体のないインチキ通販商品。一昔前なら「品位の問題」としてオンエアー不可能だった商品ばかりだ。本を読んだり勉強したり人の話を聞いたりする訓練を積んでおかないと、簡単にインチキCMにだまされる時代が来た。飲めばすぐ病気が治り、健康になってしまう薬があれば、苦労して誰も医者になったりしない。節電もとりあえずはテレビ局から始めたらどうなの。
(あ)

No.605

熊出没注意――南木佳士自選短編小説集
(幻戯書房)
南木佳士

南木佳士の本は新刊が出るたび買う、定番の作家だ。本書は、その新刊には違いないが作家生活30周年を記念する自選アンソロジー作品集だ。そのためほとんどが既読の作品である。「三十歳で作家になり、四十歳で精神を病み、五十歳から山歩きを始め」、いま還暦となった作家の魂の変遷が、この愛蔵版一冊に見事に凝縮されている。もう既読なのに、また読むの?という人もいるだろう。そう、既読の作品とはいうものの作家の歩いた道に沿って、作家自らが、思いをこめて作品を並べ替えると、各作品はまた違った相貌をもって立ちあがってくるから不思議だ。医学生だった頃、急須を買い求めたお茶屋の主人との会話に自らの芥川龍之介への想いを仮託した「急須」は、南木には珍しい秋田の医学生時代を描いた物語だ。この作品が最も印象に残ったが、表題作の中編も秋田から訪ねてきたA新聞の支局記者のインタビューのやり取りを作品にまとめたもの。「秋田のことはあまり書きたくない」と日ごろ公言している南木が、このアンソロジーには2編の秋田物を入れている。過去の単行本では『草すべり その他の短篇』が一番好きなのだが、この短篇小説集もずっと手もとに置いて何度も読み返したい本だ。(「日本農業新聞」掲載書評より抜粋)

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