Vol.615 12年9月1日 週刊あんばい一本勝負 No.608


熱中症で人生真っ暗

8月25日 今日から朝日カルチャーセンター主催の「気仙沼フォーラム」参加のため、気仙沼。震災直後に来た時に比べ信号がちゃんと付いているので車の移動は問題なし。昨夜は一関泊だった。ダイレクトで気仙沼に入るのは小生のドライブ技術ではまだ不安。一関の夜に入った焼鳥屋に見おぼえがあった。源氏鶏太の色紙で思い出したのだが、なんでこう、いつも意識せずに同じ店に入っちゃうの。シンポは聴衆そのものが新宿のセンターからそっくり移動した形。レベルも高く、緊張感もあり、けっこうスリリングな講座の連続だった。夜は近くの屋台村で打ち上げ。体調がそんなにいいわけではないので自制して早めに切り上げる。

8月26日 フォーラム2日目。ちょっと頭が重い。クーラーのせいかな。午前中で講座がおわり、午後からは陸前高田へ。テレビで何度も繰り返し流されたあの壮絶な風景が眼下に広がり、言葉が出ない。個人的には昔から陸前高田といえばライブハウス「ジョニー」のある場所として有名だったが、なんとそのジョニーが道路横プレハブで「ジャズ・タイム ジョニー」として営業中だった。八木澤商店を訪ねてお話を聞く。フォーラムの人たちと別れ、ひとり、ホテル観洋にもう1泊。ここで疲れをとるつもり。

8月27日 みんなより1泊多く気仙沼にとまり、温泉に入り、畳の部屋でゆったりとして夏の疲れをとる皮算用だったが裏目だった。夜寝られない。クーラーのせいだろうか。朝、どうにか起きだして風呂に入り、朝食を食べ、車で帰路へ。約3時間半で秋田着。信州から気仙沼と長距離ドライブのハードスケジュールが続く。会社について、いつものように旅行後の荷物を手際よく整理、これが終わらないと旅が終わった気がしない。2時間ほどで終え、さあ仕事をしようと思ったが、身体が妙にだるくて熱い。事務所のソファーでら横になるが、時間がたっても体調は悪くなるばかり。今日の夜は友人たちと飲み会がある。5時間で回復してやる、という気持ちでそのへんの栄養剤を飲みまくり、顔中に「冷えピタ」を張りまくる。飲み会は欠席せずに済んだが、顔が鬼のように真っ赤、とカミさんに笑われた。これで明後日からは東京出張だが、大丈夫かジブン。

8月28日 夜中に苦しくて何度も目を覚ました。体中が熱くてだるい。医者嫌いなので(というより信頼できる医者にまだ巡り合っていない)、ドラッグストアーに駆け込み症状を説明すると、典型的な「熱中症」とのこと。可能性の高いのは気仙沼からの帰途の車中ではないか、と店員さんはいう。車の中で熱中症になるんだ。ショック。冷えピタはやめ、氷枕ならぬ氷鉢巻をつくり、ひたすら寝る。じっと横になったら、あら、ふしぎ、おでこからぐんぐんと身体の汚泥が吸い取られていく気分になり、夕方にはかなり気分がよくなった。恐るべし氷鉢巻。でも相変わらず食欲はない。夜中にまた身体が火照ってきて眠られずモンモンとする。救いは東京行の予定をすべて日中にキャンセル手続きをしたこと。

8月29日 まだ食欲はない。頭の中で食べたい物をイメージしてみるのだが、うまく像が結ばない。かろうじて、卵かけご飯やお茶漬けが浮かぶが、わざわざ作って食べたいと思うほどではない。これは効いてるな、と思ったのは生理食塩水「OS1」。これだけはスイスイと入っていく。点滴と同じ成分です、とドラッグストアー店員が自慢するだけのことはある。仕事はできない。本には集中できない。テレビは疲れる。ただ眼をつむっているしかない。でも夜は無理を承知で(頭が痛くなるのを)、角幡唯介『探検家、36歳の憂鬱』読了。

8月30日 ずいぶんと身体が楽になった。夜中に地震があり、そのあとものすごい驟雨。このひとふりでさっと涼しくなったのがわかった。普通通り、朝ごはんを食べたが、昼は食べられない。確実に回復に向かってはいるのだが、頭のモヤモヤした霧は晴れない。でも峠は越した。なおったら思いっきり「ふくふくおにぎり」が食べたい。これは学生時代によく食べていた料理(?)で、アツアツのご飯の塩おにぎり。電気ガマから直接すくってにぎって食べるというところがミソ。火傷して手の皮がむけるくらいがちょうどいい。

8月31日 今日からは平常営業だ。なんともまあ無残な日々。脳と身体が暑さのため誤作動を繰り返し、しまいには全くかみ合わなくなり壊れてしまった。この間、ほとんど身体を動かしていないため、夜眠られないのも辛い。体調は良くないのに夜中までかけて吉田篤弘『木挽町月光夜咄』を読了。食欲はかなり戻ってきた。今日の朝は玉子かけご飯。食欲なし、運動なし、の日々だったので、どうしてもいつもより水分摂取を怠った。そのため持病の痛風がまた鎌首をもたげそうな気配。かすかに左足首のあたりに予兆がある。これが一番厄介だなあ。一難去ってまた一難。私の人生真っ暗だ。
(あ)

No.608

江戸こぼれ話
(文藝春秋)
文春文庫編

街をぶらついていて古本屋にたちより100円コーナーで本書を買った。喫茶店で読みはじめたら面白くてとまらなくなった。家に持ち帰り「便所」で読む本として置いておいたら、用もないのに便所に長居、二日で読了してしまった。神坂次郎や野口武彦、岩井護、中津文彦、南原幹雄、火坂雅志といった歴史小説家が主に歴史雑誌に書いたエッセイを、文春編集部がテーマごとに編み直したアンソロジーだ。章建ては「江戸の暮らし」「お武家も楽ではない」「江戸の諜報事情」だが、これは便宜的な分類にすぎない。それぞれの原稿が独立した随想や論文として完成度もエンターテインメント性も高い。侍医の江戸見物記、旅の金銭感覚、元禄人のカルテにレジャーガイド、付け届けの実態や参勤交代の内実、女スパイから両替商、食文化の実態まで、多種多様な江戸文化の諸相が浮き彫りにされている。雑学的テーマもプロの歴史作家によって綴られると、学者の説得力のない退屈な文章と違い、面白い読み物になる。個人的に興味深かったのは「お留守居役の外交手腕」(笠谷和比古)、「やがて貧しき大名行列」(今野信雄)。知りたかったことが、丁寧にわかりやすく書かれていた。

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