Vol.656 13年6月15日 週刊あんばい一本勝負 No.649


暑さとともに忙しさも一緒に

6月8日 好天というほどではないが、雨がないというだけで週末はウキウキ気分。仕事をする予定の土曜日だったが予定変更。友人と2人、本荘の八塩山へハイキング。朝9時出発、ハイキングシューズに軽装備で、のんびりダラダラ、まるで緊張感のない山行。これもこれでいいなあ。1時間内外で登れる低山が秋田市近郊にはけっこうある。明日は県南の真昼岳登山なので、2日連続で無理はできない年齢だが、低山なら連チャンでも問題ない。花のきれいな季節の週末は連続山行、というケースがこれからは多くなるのかも。低山に行くと最近は決まって山ガールと思しき娘たちと出会う。

6月9日 予報は好天のはずだが曇天。今にも降りだしそうな雲行きだが、雨はなさそうだ。今日は美郷町にある真昼岳。個人的には秋田で一番ブナ林の美しい森があり、好きな山のひとつだ。毎年、飽きもせず県内の同じ山へ何度も登る。いい加減飽きるが、利点もある。去年や以前の自分と、脚力や登山技術を比較することができる。ここ2年ほど、真昼岳と聞くだけで「しんどそうだな」という気持ちが先行したが、今年は「楽勝」とうそぶいている自分がいる。ダイエットの影響だろうが、ここ10年間のなかでも今年は一番体調、体力が充実している。まあ、こうした時に慢心から怪我や事故を起こすのが常だから慎重にはなっているのだが……。それにしても身体の調子がいいって幸せなことだ。

6月10日 カメムシ臭がする。去年はカメムシでえらい目にあった。網戸のない窓から大量発生したカメムシが入り込み、部屋から数ヶ月間臭いが消えず閉口した。臭いがあるということはどこかにカメムシが居座っていること。探し出せぬまま冬口になり、暖房をつけたとたん電燈の中からカメ2匹が飛び出した。あの時の忌まわしい記憶が蘇った。たぶん八塩山でひっつかれたのだろうか。山から帰ったら身体からかすかなカメムシ臭。暗い気持ちになったが、どうやら服にだけついた臭いだ。服を脱いだら異臭は消えた。自然と遊ぶのは楽しいが、カメと山ヒルの怖さも付いてくる。熊と遭遇のリスクも高い。事故やけがとも表裏の関係だ。そのことを忘れないようにしなければ。

6月11日 久しぶりの新刊が出来てくる。『北海道「古語」探訪』という方言の本。この前の新刊は『新羅乃記録』で、これは北海道の最も古い文献資料の現代語訳だ。連続で北海道の本を出すことになるわけだ。おかげで北海道新聞の広告も打ちやすい。日本農業新聞に連載している「読書日記」も、なぜか2回連続で北海道関連の本を取り上げている。全く北海道を意識していないのだが、不思議とこんなことが続く(似た傾向の本を出す)。これまでもよくあった。論理的にはとても説明できないのだが「テーマ連続の方式」とか、うまいネーミングでも付けてやりたいが、ボンクラ頭にはいい言葉が浮かばない。これでもう1本、何かしら北海道が出てくれば、これはこれでちょっと怖い。

6月12日 出版依頼が増えだした。その対応に忙しい。といってもあくまで依頼者との「対応」や「説明」が忙しいだけだ。このニュアンスを説明するのは難しい。紙やインクの値上がりが続き、印刷所の再編も進み、書店で本は売れなくなり、従来の出版・印刷モデルでは依頼に「対応」できなくなりつつある。前なら簡単にまとまった話が、なかにシビアーな印刷や書店の数字が厳然と立ちふさがり、軽率に「はいはい」と引き受けるわけにはいかないのだ。こんな時代になると予想はしていたが、数年早すぎる。せめて私が引退するまで待ってほしかったのに。本を出す前にヘトヘトに出版者が疲れてしまう、というのは常態ではない。

6月13日 毎日好天というか夏日で、慶賀に堪えないが、こちらは週末だけ晴れてくれればいい、というアマノジャク。でも稲にとっては恵みの暑さだろう。さすがに真昼の駅前散歩は汗だくになるので、1週間前から夜の田園コースに切り替えた。ノースアジア大学前を通り横金線裏手から大学病院にたどりつく、ほとんど人と出会わない暗くさびしい道だ。でも散歩のクオリティは夜のほうが圧倒的に高い。自分の世界に没入しながらでも歩ける。昼の繁華街でこうはいかない。目に見える物のことばかり考えてしまうからだ。それに繁華街にあるのは直線ばかりだ。フランス語の「ランドネ」は遊歩道という意味だが、もともとある道ではなく獣が本能的に選んでゆく「道なき道」のことをいうらしい。夜のコースはこのランドネに近い。直線ではない、予測のつかない自然の時間と空間が、郊外にはまだ残っている。

6月14日 アイスクリームが喰いてぇぇぇぇ。暑い日々が続いているが明日は雨のようだ。ひと雨ほしいところ。が、日曜は焼石岳なので振らないでね。そのアイスだが、去年の11月から食べていない。毎日1個、冬の間も必ず食べていた「森永ミルクアイス断ち」をして半年以上になる。体重が増えたのはこのアイスのせい、と断定して以後、売り場に近づきもしない。おかげで10キロ減を達成できたが、今年の夏はアイスなしで乗りきれるだろうか。たぶん大丈夫。わが友「カンテン」がある。毎日、昼に自分の作ったカンテンを食べるのが日課だ。そういえば暑くなってきたらカンテンの味付けが甘めになってきた。カンテンをミルクアイスの代用にしてはイカンぞ、ジブン。
(あ)

No649

安井かずみがいた時代
(集英社)
島崎今日子

散歩の途中に立ち寄った書店で偶然見つけた。本が「絶対おもしろいから読んでね」と、手招きしていたのだ。60年代に作詞家として大ヒットを連発し、華やかにスタイリッシュに時代を駆け抜けた、伝説の女性の素顔に迫ったるルポルタージュだ。当時のきらびやかな都会の最前線とは、まったく無縁な場所で生きた人間(私です)にとっては、ぜひとも知りたい(のぞき見したい)世界なのだ。著者は雑誌の人物ルポなどで定評のある人で、間違いはない。読みはじめると、彼女を語る多くの有名人(デザイナー・作家・芸能人・文化人)のほとんどが「もうあんな人は出てこない」「すごい人」「他の日本人とはまるで異質の世界に生きた人」といった讃美のオンパレードだ。えっただの礼賛本? と思ったのだが、後半で登場する吉田拓郎の証言あたりからトーンはガラリと変わった。家にいるときでも夕食は盛装して食べるような暮らし向きの異常さを、拓郎は痛烈に批判し、仮面夫婦のような生活に厳しい批判的が続く。もうあんな人は2度と出てこない、というのは「あんな時代は2度とない」と置き換えたほうがいい、と著者は言う。人ではなく時代が産みだした偉才なのだ。評伝なのに構成がおもしろい。証言者の名前がそのまま章題になっている。あのバブルは何だったのか、彼女の人生から時代が透けて見えてくる。

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